（二十一階建のビルの昼下がり。
エレベーターの中には男女二人。
キーーーーンと音がして、急にエレベーターが止まる。
電気が消える）

女

「キャ！」

男

「オッ！…」

（ガタンガタンと音。
エレベーター、少し揺れた後止まる男非常ベルを押す。が、鳴らない）

男

「あれ…」

女

「非常ベル…鳴らない…だれか…｣

（男、エレベーターの壁をたたいてみる）

女

「そんなにたたかないで」

（男と女、同時に携帯をとりだし、話始める）

女

もしもし、水島ですけど…はい…東口のエレベーター………はい、真っ暗で……いえ、もう一人…
（男の方を向いて）

女

「あの、」

男

「吉岡、十八階のロナウド…株式会社ロナウド…」

女

十八階のロナウドの人が一人…はい……はい…

男

もしもし、青岡です。東口のエレベーターです……いえ、非常ベルも作動しません。……はい、もう一人
（女の方を向いて）

女

「水島、十一階の…」

男

水島さん…女性です…大丈夫です。（女に「ケガしてないですよね」）大丈夫だそうです。……あ、そうなんですか、そっちも……どうしましょうか

女

ビル全体？………はい、聞こえてます……はい、ちょっと、待って下さい。

男

あっ、ちょっとすいません…

女

「あのう、すいません、うちの課長がー代わってくれって…」　（女、電話を男に手渡す）

男

あっ、はい。……はじめまして。ロナウド、はい、十八階の…青岡と申します。はい……そうみたいですね。……はい…はい…こちらこそ…わかりました。代わります」

女

代わりました。…はい、わかりました。おねがいします……（電話をきる）

男

すいません、ちょっと、……その、一緒にいる女性の課長さんって方から電話に出てまして……はい…はい…そうです。………はい。よろしくお願いします。…待ってます…（電話をきる）

男

「大丈夫みたいですよ、『一時間もしたら直るやろ』ってうちの部長」

女

「一時間も」

男

「呑気なんですよ。まあ、ぼくたちがここにいるっていうのはわかってるんだから…」

（女、電話がかかってくる）

女

はい……あーーーみきー。……そう、そうなのよ…（男に「十二階も消えてるって」）わたし？エレベーター……そう。うん、大丈夫は大丈夫だけど……もう一人…十八階の…男の人……何言ってるの………映画ならね、そういうことも起きるかもしれないけど……もう、冗談言うてる場合やないの。…うん………がんばる……ありがとう……

（女、電話をきる）

男

「友達？」

女

「同僚。課は違うんだけど…」

男

「…君とよくあってるよね…」

女

「？そうですか…」

男

「エレベーターにいつも飛び乗りするやろ」

女

「飛び乗りって…」

男

「この間……先週の…ドアに顔はさまれた…」

女

「ああーっ…」（遠くからサイレンの響き。ビルの前で止まった様子。しばらく、沈黙。二人に電話がかかってくる）

女

はい。……はい。よかったー…
（男に「工事の車が着いたって」）

男

はい、そうですか……はい、了解です
（男、女、電話をきる）

女

「もうすぐですって」

男

「よかったーいちじはどうなることかと」

女

「エレベーターが落ちたらどうしようって思ったでしょ」

男

「そんなこと…落ちたりしませんよ」

女

「酸素がなくなったらって思ったでしょ」

男

「そんなこと…」

女

「天井開けて脱出しようとか思ったでしょ」

男

「そんなこと…」

女

「もし、こういうとき、助けがこなかったら、どうなるやろ…」

男

「一晩くらいなら…」

女

「寒くって凍えるかも…」

男

「…二人いたら大丈夫やろ…」

女

「…えっ…」

（男、電話がかかる）

男

はい。…あっ、…いや、……ああ、あれね…うん……………いや……うーーん…そうじゃないけど…こっち大変やねん、会社のビル停電してて…

（突然電気がつく）

女

「あっ、電気ついた」

男

じつは、おれ、今エレベーターの中…そう、閉じ込められてる……大丈夫、大丈夫…大丈夫だって…いや、もう一人………こつん、また電話する…わかった…

（電話きる）

男

「…こんなん、まいるよな…｣

（同時に電話がかかる）

男

はい、はい。こっちは電気つきました。………何言うてるんですか……もう……わかりました。伝えておきます。

女

はい。今つきました。…こえっ？…もう……冗談いわんとってください、もう……はい。はい。

（二人、電話を切る）