(開演前の披露宴会場。司会を担当する新郎、新婦の友人二人。落ち着かない気持ちでお客さんを待っている)。
良介
「ふぅーーーーーー(大きく息を吐く)」
直子
「ふううーーふふふ」
(お互い顔を見合わせて、ぎこちなく笑う)
良介
「俺、なんか、緊張するわ」
直子
「わたしも」
良介
「なんで俺らが緊張するねん」
直子
「そりゃ、緊張するよ。83人やろ、一生に一回のことやろ。『すんなりいくも、いかんも、司会にかかっとる』言うて、陽子、脅かすねんよ」
良介
「ほんでも、頼まれたらやらんわけにはいかんわな。俺も一緒や。耕平のやつ、『これはチャンスやで』ってなんやわけわからんこと言うとったけど頼まれたらなあ」
直子
「要はわたしら見込まれたいうことやろ」
良介
「そやな。厚い信頼を背に、ハッピィ&ハートフルな披露宴にしてやろやないか、なあ」
直子
「ふふふ…耕平くんのいう通りやわ。『良平はすぐ調子にのる』言うとったわ」
良介
「もう、あいつろくなこと言うとらんなあ。まあ、当たっとるけど。そういえば、直子さんは『募集中』なんやて?」
直子
「まった!」
良介
「ちゃうん?」
直子
「ちゃう。そんなん募集するもん違うやろ」
良介
「そっかー…募集中かぁ」
直子
「あっ、変な気い起こさんといてよ。披露宴の司会をちゃんとするのがわたしらの役目なんやからね」
良介
「あたり前や。…終わってからや」
直子
「もう!練習や、練習。最初のとこ、合わしとこ」
良介
「よっしゃ」
(二人、深呼吸)
良介
「新郎」
直子
「(少し遅れて)新婦」
二人
「(声がそろわない)入場!」
(二人笑う)
良介
「もう一回や」
直子
「うん」
良介
「気い合わせて決めようぜ。(小さく)せーのー」
良介
「新郎」
直子
「新婦」
二人
「入場!」
(二人、小さく拍手)
直子
「それから……えーと…(メモをくる)ここ、ここ」
良介
「(のぞき込んで)キャンドルサービス」
直子
「各テーブルの紹介。ーー次に新郎新婦が参りますテーブルは、ミッキーにユッコ、ターちゃんにのんこ、ピッピにカニさん。新婦、陽子さんの高校時代の友人たちです」
良介
「あはははーーーー」
直子
「何よ、それ」
良介
「お客さん、みんな笑うで」
直子
「ええの。この方がみんなにわかるの。ほら、次は自分やろ」
良介
「続いてのテーブルは新郎、耕平の悪友たち。自称魚釣りのプロ、沢田。一直線に突っ走るだけの村上。仕切りたがり屋の高木。腹芸の持ち主、阿部。酒は底無しの畑山。ヘタなパントマイムが得意な清水。サークルの仲間たちでした」
直子
「で、良平さんはどうなん?」
良介
「えっ?俺?俺は…」
直子
「本番に弱い。」
良介
「なんでやねん」
直子
「ちゃうん?」
良介
「ちゃう。……ちゃうちゃう」
直子
「ほんまぁ?…あっ、お客さん入り始めた…」
良介
「う、うん」
(ドアが開き、会場は披露宴が始まる前の華やいだ雰囲気につつまれていく)
良介
「(軽く手を挙げて)おう!……ゼミの仲間。久しぶりやわ…卒業以来やわ」
直子
「ええ感じの人やね。紹介してな」
良介
「ええっ、あんなんが好み?」
直子
「うん。(小声で)掘りだちのじゃがいもみたいなん好きやねん」
良介
「じゃがいも?それなら、俺のほうがじゃがいもらしいって。(自分で突っ込みを入れて)なんちゅうてんねん!」
直子
「えっ?なんか言うた?」
良介
「いや、直子さん、変わとるな思うて」
直子
「外見やなくて、ちゃんと中味を見とるいうことや」
良介
「へぇーーー。それにしても陽子ちゃんの友達みんなきれいやなあ。あの着物着てる人は?」
直子
「ピッピ。残念でした。この春結婚しました」
良介
「あの黄緑のドレスの人は?」
直子
「裕子。だめよ、純情な子なんやから」
良介
「ええ感じや」
直子
「そやろ。わたしらの仲間、みんなええ感じやし、純やし…けど、変な気い起こしたらあかんよ。もう、みんないい人がおるんやからね」
良介
「みんな?ほんまに?」
直子
「そう」
良介
「ほんで、直子さんだけ募集中?なんでやろ」
直子
「知らん。男がみんなアホやからやろ」
良介
「はっはあー、そこやな。陽子ちゃんが言うとった。ちょっと強がりで生意気やいうて」
直子
「あーー陽子のやつ」
良介
「おう、そろそろやないかー。様子見てくるわ」
(良介、ドアの所へ行く。ざわめき大きくなる。良介、もどってくる)
良介
「準備OKや。時間どおりスタートできる。……ああ、どないしよう。緊張してきた…手のひらに人の字書いて飲み込もう…」
直子
「あー、自分だけ?わたしも」
(二人、『人』を飲み込む。音楽、BGMから入場の音楽へ。ざわめきが止む)
良介
「新郎」
直子
「新婦」
二人
「入場!」
(音楽大きくなる。拍手がかぶさる)