―ある部屋。よこたわる男女。
「今、何時?」
「知らん。」
「下で、3回打った思うねん。時計。」
「ほな、3時や」
「聞き違いやないやろか」
「知らん」
「3時のはずないやろ」
「何で」
「薬、呑んだん、12時やで……。2時間以上もつはずない。」
「そうか」
「そうかやないやろ」
「しゃあないやろ、もってんねんから」
「これはもってんねんか?」
「えッ?」
「もってるんやのうて、死んでんのんとちがうか? わしら」
「ああ」
「ああやない。死んでんねん」
「死んでるヤツが、時計の音、聞くか?」
「そやし、あれは幻聴や」
「幻聴かて、生きてるもんが、聞くんやアホ。」
「そっか」
「……」
「ほな、何やねん、わしら…死んでもうたんか?」
「死んでんのに、会話するか、アホ」
「何やねん、ほんなら。わしら」
「生きてんのや、まだ」
「2時間過ぎてもか?」
「そうや」
「そんなことあるわけないやろ」
「現に生きてるやんか、うっとォしいな、あんた」
「こんなん、生きてる言わへんわ。」
「何で」
「何にも動かへんやんか。手も足も、出ェへん。」
「薬のんだからやないか。」
「そんなんわかってるわ」
「も、ちょっとだまりィな。うるさいわ」
「……」
「昼の3時やったりして」
「そんなアホな」
「わからへんで」
「何言うてんの。そこまでもつはずない。わしら生きてられへん。あのクスリ、甘ないで」
「ちゃうちゃう。……昨日の昼の3時や」
「はァ?」
「トリップして過去に逆もどりや…」
「笑うてまうわ」
「笑うたらええやん」
「ハハハ…」
「…」
「…昨日の今ごろ、何してたやろ。」
「知らん、忘れてもうた…。」
「ヨシオのアホを、七条の橋からつきとばして」
「あいつ、どないしたやろ」
「流されて、今ごろは海の上や。」
「プカプカういとんのやろか
「サメのエサや」
「かあいそやな」
「何やそれ、今さらそんなこと言うなや。お前のため思うてやったんやないか」
「…ヨシオの方が、あんたよりうまかったわ」
「何やて」
「ヨシオと、こうなればよかったんやわ」
「…ウソやろ」
「ウソやない」
「ほんなら…何やねん、オレは…オレは何のために…お前と、こんなことまでして」
「…知らん」
「どうゆうことやねん」
「知らんて、わたしは…」
「…」
「何を、今さら、どうゆうたかて、とりかえしのつかんことばかりやで。そうゆうもんや、人生は」
「…オレは死にとない…こんなことってあるかッ。死にとないんや。」
「そやし、まだ、生きてるやないか」
「生きてるんか?」
「生きてるやない。ほら…。」
「ほらって、何や」
「立って、歩いて、タバコ吸うて…。ああ、もうホンマつかれたわ。」
「え?…」
「ちょっと、わたし買物行ってくるわ。」
「ちょっと、待ちいな」
「ほな、行って来ますわ」
「え?…そんな…おい!…オレは、どないすんのや…。このまま、何しとったらええねん…。おい!…おい!」
―間。
「今、何時や…。…なあ…誰もおらへんのか?…なあ…。  …ここは一体、どこやねん…」