- 登場人物
- 男
女 水晶占い師
- (夜若者達であふれる繁華街。デパートの閉まったシャッターの前、小さな机をだしているのはいつもの占い師。
黒いカバーをかけた机の上には大きな水晶玉。前には、斜めにスパンコールで『愛占い・恋占い』の文字。
黒いドレスに黒いベールの占い師、前を行き過ぎる人と水晶玉を見るともなく見ている)
- 女
- 「…………こんなにたくさんの男や女がいるのに……いい男っていないもんだねぇ………看板、見えてるよね。…『愛占い・恋占い』だよ…観てほしくないのかい、水晶占いだよ。よーく当たるよ………ふう………ちょっとー、ちょっとちょっと」
- 男
- 「おれ?…ですか?」
- 女
- 「そう。座って」
- 男
- 「えっ?」
- 女
- 「恋の行方、知りたいだろ」
- 男
- 「いえ…別に……」
- (男、そう言いながらも、女の前に座る。女、水晶玉にうつる男の顔をジーと見る)
- 女
- 「この水晶ね、なんでもうつすんだよ。ほら、ここ…――ありゃ、光ってるよ。やけに明るいよ――……みえるだろ。明るく光ってるだろ。……あんた、明るい明日が来るよ、いい女と出会うよ」
- 男
- 「おれ、そういうのには、のりませんよ」
- 女
- 「その女、あんたのことを『アンドレ』って呼ぶよ」
- 男
- 「誰がですって?」
- 女
- 「その女がさ」
- 男
- 「何言ってるんですかー」
- 女
- 「呼ぶんだよ、アンドレって」
- 男
- 「あのね、勝手なこと言わないでください。おれ、ちゃんと名前ありますし、そんな呼ばれ方されたこと、生まれてから今まで一度もありませんよ」
- 女
- 「生まれてから今まで?」
- 男
- 「そうです。一度も」
- 女
- 「……今からのことはわからないだろ…今からだよ。……ほら、よく見て。きらきらしてるよ」
- 男
- 「…ネオン。お店のネオンがうつってるだけじゃないですか」
- 女
- 「妙に明るいねぇ。めったに見られない光の渦まで見えるよ」
- 男
- 「おれ、失礼します。明るい光だかなんだか知りませんけど、そんなものちっとも信じてませんから」
- 女
- 「ちょっと、待ちなさいよ。気になるんだよ、プロとしては。とにかくもう一度座って。この光、見逃すわけにはいかないわ。こうして看板あげてる以上はね」
- (女、男を強引に座らせる)
- 女
- あんたの過去、ちょっと見せてもらうよ」
- 男
- 「あー、勝手にのぞき込まないでくださいよ」
- 女
- 「…………(笑って)なんてこと!…何もないじゃない。きれいって言えばきれいだけど」
- 男
- 「失礼な。見えてないんじゃないですか。悩みも挫折もありましたよ」
- 女
- 「…これ位じゃ、挫折っていわないんだよ。プロの世界じゃね」
- 男
- 「おれの人生です」
- 女
- 「恋も、結構チャンスはあったのに…逃してきてるね」
- 男
- 「ほっといて下さい」
- 女
- 「にぶいんだね」
- 男
- 「大きなお世話です」
- 女
- 「相手の気持ちにも、自分の気持ちにも気づかないんだ…」
- 男
- 「いい加減にしてくださいよ」
- 女
- 「素直で、いいやつなんだけどね…のんびりしてるっていうか……詰めが甘いっていうか…押しが足らないっていうか…」
- 男
- 「言っておきますけど、水晶だかなんだか知りませんが、そんなガラス玉にうつってる過去なんて、おれ、信じてませんからね」
- 女
- 「よーくうつすんだよ。うそつかないんだよ、この水晶」
- 男
- 「全然ですね。言っちゃあなんですけど、こう見えても恋の一つや二つ…」
- 女
- 「……うん?…………黙って!…」
- 男
- 「?……」
- 女
- 「………(つぶやいて)おかしい……」
- 男
- 「はあ?」
- 女
- 「いいから、水晶玉みてなさいよ。……いいねぇ、輝いてるよ」
- 男
- 「うれしそうですね」
- 女
- 「何言ってるの。あんたの未来のことだよ」
- 男
- 「おれの未来?」
- 女
- 「とびっきりの明るさだね」
- 男
- 「止めてくださいよ。おれ、自分の未来なんか知りたくもないし、見たくもないですよ」
- 女
- 「………うん?………なんで??………」
- 男
- 「とにかく、勝手に人の未来とか、過去とか、見ないでください」
- 女
- 「…………(ぶつぶつと)おかしい……なんで……」
- 男
- 「何です?さっきから。はっきり言っておきます。自分の未来は自分で切り開きます。おせっかいは止めてください」
- 女
- 「うるさいねぇ……静かにして。…………(ぶつぶつと)この光の渦はなんだい……このきらめき具合はどうなってんの………なんで?…なんでよー……………なんで私がー…………あれーーー」
- (女、机に伏せる)
- 男
- 「どうしたんです。気分でも悪いんですか?ちょっと、ちょっとーーー」
- (女、我に返る)
- 男
- 「大丈夫ですか?」
- 女
- 「ああ、ありがとう。めまいが…」
- 男
- 「もう帰ったほうがいいですよ」
- 女
- 「そうみたい。途中で悪いけど、そうさせてもらうわ。あ、お代はいいわよ。今日はサービス」
- (女、独り言をいいながらかたずけ始める。男、自然に手伝う)
- 女
- 「……どうなってんだろう?こんなこと……この男の未来をみてたのに………う、ううう、頭の中が混線してる?……脳みそが疲れてた?集中力が欠けてる?……それとも………やだ!感受性がふやけてきてる?!……」
- 男
- 「顔、青いですけど……一人で帰れますか?」
- 女
- 「ああ……ええ…もう大丈夫。心配しないで、アンドレ」
- (一瞬全ての音が消える)
- 男
- 「えっ?!」
- 女
- 「あっ!」
- (街・雑踏)