登場人物
1.男
2.女(幽霊)
―安ホテルの部屋。ベッドの上の男女。 男、タバコに火をつける
「…私、ちょっと声、大きかったんやない?」
「え?いや、そうでもないんちゃう…」
「となりに聞こえてへんやろか。」
「大丈夫やろ」
「もうちょっと、マシなホテルないのん?…私、もういややわ、こんなところばっかり…。」
「しゃあないやろ。安いんやから、ちょっとはガマンせえや」
「…ホラ…となり…聞こえるやろ…。…。」
「…うん…。」
「まるで、ケダモノやな。」
「こうゆうところはな、隣り部屋同士で気分をたかめ合うっていうメリットもあんねんで。」(と、またせまる)
「ちょっとやめえな!」
「何で」
「私はな、港の見える、夜景のきれいなシティホテルなんかで、一夜をあかしてみたいって言うてんのやで。ね、ええやろ、たまにはそんなとこ連れてってよ。」
「ああ…。今度な…コンド…。」
「今度、コンドって。いっつも、それや…。」
「あのな、ぜいたく言うたら、あかんわ…。ここのホテル代かてオレが払うてんのやで…。」
「ほんま、ケチやな、あんた…。」
「嫌なら、やめてもええねんで…。もう会わんとこか。」
「……。」
(タバコを消して)「ああ、もう、しらけてしもうたわ…。」
「ごめんなさい。」
―間。
「…そんなこと言うのやったら、わざわざ外で会わんでもええんやん…。」
「外で会わんで、どこで会うねん。」
「あんたの家。」
「ウチ?ウチはあかんわ。」
「何で…もう、奥さんもおらへんのやから、気にせんでもええやん。」
「まあ、そうやけど…。じゃあ、お前のアパートはどうや…。」
「あかん。」
「何で」
「私、アパートあらへんねん。」
「え?」
「私、住んでるとこ、あらへん。」
「え?何言うてんの。」
「自分の家は、さすがに気がひけてあかんのか。」
「え?」
「無理もないわ…。死んでまだ半年やからな…。」
「…。」
「そやけど、死んで半年やのに…これやで…。ええな、生きとるもんは。」
「え?」
「それとも、私が生きとるときからの仲なんか?この女。」
「…は?…ええ?」
(少し笑って)「何やのん。どないしたん、びっくりした顔して。私やんか…。ワ・タ・シ。」
「ああ!!」
「お久しぶりやね。」
「お、…お前、いつの間に。」
「何言うてんの。さっきからずっと一緒におったやん。」
「じゃあ…お前」
「ちょっと、あんたの女のカラダにのりうつってみました。どんなもんなんやろ思うて。」
「何でそんなことすんねん。」
「私もごぶさたやしな、ここんとこ。」
「あたりまえやろ、お前は死んだんやで。」
「幽霊かてな…、さみしいねんで、わかるやろ。」
「わからへん!」
「しゃあないやんか。会いたなったんやから。」
「じゃあ、お前…ヤスコは…」
「ヤスコって?…ヤスコって誰のことよ。」
「えっ?ああ…いや…。」
「この女、ヤスコっていう名前なん?」
「うん…」
「へぇ…。」
「お前な、どうでもええけど、他人のカラダ利用して出てくんのはやめてくれ。」
「あんた、こんなカラダのどこがええの。」
「いや、それは、その…」
「わたしの方が、もっとええカラダやったわ…。ホンマにこんな、真ッ茶ッチャな髪のどこがええの。クーッ。(と、髪をひっぱる)みんな抜いたろか。」
「ちょっと、やめろや。」
「もう、忘れてしもうたん、私のこと。」
「そんなことないよ。」
「忘れたし、こんな女とつき合ってんのやろ。」
「いや、違うってそれは。」
「じゃあ、私の名前を呼んでくれる?」
「え?」
「ねぇ…忘れてへんのやったら、私のこと、前みたいに、呼んでくれる?」
「…。」
「やっぱり、忘れたん」
「いや、そんなわけないやろ。」
「それじゃ、ええやん。ね、今すぐ…早よ…ねえ…早よ。」
―間。
「え?」
「…誰やのん。キョウコって…。」
「え?…いや…。」
「誰のこと?…あんたの昔の女?…それとも、奥さんの名前?」
「え?…じゃお前…やっぱり、ヤスコなんか?」
「何言うてんの?」
「え?」
「誰?ヤスコって…。」
「ええ?!」
「フフフフフ…」(と、笑う)
「誰やねん、お前!」
―音楽。
―おわり