- 登場人物
- 1.男
2.女(幽霊)
- ―安ホテルの部屋。ベッドの上の男女。 男、タバコに火をつける
- 女
- 「…私、ちょっと声、大きかったんやない?」
- 男
- 「え?いや、そうでもないんちゃう…」
- 女
- 「となりに聞こえてへんやろか。」
- 男
- 「大丈夫やろ」
- 女
- 「もうちょっと、マシなホテルないのん?…私、もういややわ、こんなところばっかり…。」
- 男
- 「しゃあないやろ。安いんやから、ちょっとはガマンせえや」
- 女
- 「…ホラ…となり…聞こえるやろ…。…。」
- 男
- 「…うん…。」
- 女
- 「まるで、ケダモノやな。」
- 男
- 「こうゆうところはな、隣り部屋同士で気分をたかめ合うっていうメリットもあんねんで。」(と、またせまる)
- 女
- 「ちょっとやめえな!」
- 男
- 「何で」
- 女
- 「私はな、港の見える、夜景のきれいなシティホテルなんかで、一夜をあかしてみたいって言うてんのやで。ね、ええやろ、たまにはそんなとこ連れてってよ。」
- 男
- 「ああ…。今度な…コンド…。」
- 女
- 「今度、コンドって。いっつも、それや…。」
- 男
- 「あのな、ぜいたく言うたら、あかんわ…。ここのホテル代かてオレが払うてんのやで…。」
- 女
- 「ほんま、ケチやな、あんた…。」
- 男
- 「嫌なら、やめてもええねんで…。もう会わんとこか。」
- 女
- 「……。」
- 男
- (タバコを消して)「ああ、もう、しらけてしもうたわ…。」
- 女
- 「ごめんなさい。」
- ―間。
- 女
- 「…そんなこと言うのやったら、わざわざ外で会わんでもええんやん…。」
- 男
- 「外で会わんで、どこで会うねん。」
- 女
- 「あんたの家。」
- 男
- 「ウチ?ウチはあかんわ。」
- 女
- 「何で…もう、奥さんもおらへんのやから、気にせんでもええやん。」
- 男
- 「まあ、そうやけど…。じゃあ、お前のアパートはどうや…。」
- 女
- 「あかん。」
- 男
- 「何で」
- 女
- 「私、アパートあらへんねん。」
- 男
- 「え?」
- 女
- 「私、住んでるとこ、あらへん。」
- 男
- 「え?何言うてんの。」
- 女
- 「自分の家は、さすがに気がひけてあかんのか。」
- 男
- 「え?」
- 女
- 「無理もないわ…。死んでまだ半年やからな…。」
- 男
- 「…。」
- 女
- 「そやけど、死んで半年やのに…これやで…。ええな、生きとるもんは。」
- 男
- 「え?」
- 女
- 「それとも、私が生きとるときからの仲なんか?この女。」
- 男
- 「…は?…ええ?」
- 女
- (少し笑って)「何やのん。どないしたん、びっくりした顔して。私やんか…。ワ・タ・シ。」
- 男
- 「ああ!!」
- 女
- 「お久しぶりやね。」
- 男
- 「お、…お前、いつの間に。」
- 女
- 「何言うてんの。さっきからずっと一緒におったやん。」
- 男
- 「じゃあ…お前」
- 女
- 「ちょっと、あんたの女のカラダにのりうつってみました。どんなもんなんやろ思うて。」
- 男
- 「何でそんなことすんねん。」
- 女
- 「私もごぶさたやしな、ここんとこ。」
- 男
- 「あたりまえやろ、お前は死んだんやで。」
- 女
- 「幽霊かてな…、さみしいねんで、わかるやろ。」
- 男
- 「わからへん!」
- 女
- 「しゃあないやんか。会いたなったんやから。」
- 男
- 「じゃあ、お前…ヤスコは…」
- 女
- 「ヤスコって?…ヤスコって誰のことよ。」
- 男
- 「えっ?ああ…いや…。」
- 女
- 「この女、ヤスコっていう名前なん?」
- 男
- 「うん…」
- 女
- 「へぇ…。」
- 男
- 「お前な、どうでもええけど、他人のカラダ利用して出てくんのはやめてくれ。」
- 女
- 「あんた、こんなカラダのどこがええの。」
- 男
- 「いや、それは、その…」
- 女
- 「わたしの方が、もっとええカラダやったわ…。ホンマにこんな、真ッ茶ッチャな髪のどこがええの。クーッ。(と、髪をひっぱる)みんな抜いたろか。」
- 男
- 「ちょっと、やめろや。」
- 女
- 「もう、忘れてしもうたん、私のこと。」
- 男
- 「そんなことないよ。」
- 女
- 「忘れたし、こんな女とつき合ってんのやろ。」
- 男
- 「いや、違うってそれは。」
- 女
- 「じゃあ、私の名前を呼んでくれる?」
- 男
- 「え?」
- 女
- 「ねぇ…忘れてへんのやったら、私のこと、前みたいに、呼んでくれる?」
- 男
- 「…。」
- 女
- 「やっぱり、忘れたん」
- 男
- 「いや、そんなわけないやろ。」
- 女
- 「それじゃ、ええやん。ね、今すぐ…早よ…ねえ…早よ。」
- ―間。
- 男
- 「え?」
- 女
- 「…誰やのん。キョウコって…。」
- 男
- 「え?…いや…。」
- 女
- 「誰のこと?…あんたの昔の女?…それとも、奥さんの名前?」
- 男
- 「え?…じゃお前…やっぱり、ヤスコなんか?」
- 女
- 「何言うてんの?」
- 男
- 「え?」
- 女
- 「誰?ヤスコって…。」
- 男
- 「ええ?!」
- 女
- 「フフフフフ…」(と、笑う)
- 男
- 「誰やねん、お前!」
- ―音楽。
- ―おわり