- (雨の音)
- ワタシ
- リトーの見ためは、人間と変わらない。
リトーの心も、人間と変わらない。
だから、私は、彼がロボットだということをすっかり忘れている。
- ワタシ
- リトーには、腕がない。でも、なんでもできる。ダンスも得意だし、歌もうまい。なにより彼が素敵なのは、話を作るのが、とても上手なことだ。リトーは、お話ロボットだから、当り前といえば、当り前だけど。ロボットの彼に心があるのは、きっとお話ロボットだからだろう。
リトーは、いつも袖の長い服を着る。私は、その袖の中に綿をつめて、袖の先には手袋を縫いつけて、手をつないで散歩をする。公園や、線路の脇の坂道で、私は、大笑いをしたり、泣いたり、驚いたりする。そして最後は、いつも笑っている。
- カレ
- 「丸山青果店のおばちゃんと、エーゲ海に住むイルカに、実は意外なつながりがあるんだ――」
- ワタシ
- 毎晩、彼の話を聞きながら眠る。夜のは、ちゃんと心地よく眠れるような話だ。彼は、そういうとこ、ちゃんと心得てる。
- カレ
- 「暖炉の前のテーブルに、リボンのかかった箱がある。…君のだよ――」
- ワタシ
- 私たちは、とてもうまくいっていた。
私は、彼がとても、好きだし、彼も、この暮らしが気に入ってるようだ。近所の人の多くは、彼がロボットだと知らないので、二人を恋人同志だと思っているらしい。いっそ、そうなればいいと、私は思う。私たちは、とてもうまくいっていた。
- ワタシ
- 昨日、という日は、きっと一生忘れられないヒドイ一日だった。
すごい偶然が見事に重なって、バケツの水を頭からかけられるみたいに、悪いことばかりが、私の上に降ってきた。
夜になる頃には、もうくたくたで、悲しくて、情けなくて、些細なことが私をイラだたせた。
彼は、私を元気づけようと、言葉をさぐりながら、話をしてくれた。
- カレ
- 「…いいかい…よく聞いて…君は……でも……それはきっと……」(彼の話す言葉はあまり耳に入ってこない)
- ワタシ
- 私は、…それがとても嬉しかった。…なのに、私は、彼をさえぎってこう言ったのだ。
「私は今、あなたの話が聞きたいんじゃなくて、…あなたに抱きしめてほしいのよ!」
- ワタシ
- 世界は無音になって、彼の顔から、表情が消えて、ゆっくり立ち上がって、そして、出ていった。
- ワタシ
- とり返しがつかない。
これまでにも、私、たくさん過ちを犯した。なんでその前に、気がつかないんだろう。
私はあなたに、何と言ったのだろう。
なんていう、振る舞いをしたのだろう。
どうして、大切な人を傷つけるのだろう。
どんなに、後悔しても、元に戻らないものがある。
私の言葉は、消えない。
- 〈雨の音〉〈彼女は彼を探している〉
- ワタシ
- ドウカ、コノ、アヤマチヲ、ノリコエラレマスヨウニ。
- 〈雨の音〉
〈人の気配〉〈物音(靴音でも)〉〈彼だ〉
- ワタシ
- 〈呼びかける〉「…リ…ト…」
彼は、今まで見せた事のない沈んだ顔で、静かに、こう告げる。
- カレ
- 「僕は、今度、掃除ロボットにでも、つくり直してもらうよ。」
- ワタシ
- 「…そしたら、…心がなくなる。」
- カレ
- 「…。」
- ワタシ
- 「それから、…今度、あなたに抱きしめてほしくなった時は、…今度は、私が、あなたを抱きしめる。…一緒のことだもの。」
- 〈雨の音〉
- カレ
- 「僕は、いつも、君を、包んであげられるような、話をしたいと、思っているんだ。」
「…。」
- 終わり