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ボワ???ン
健太郎
「?……誰だ、こんなに遅く…」
(ホコリ臭いにおいがして、 マリコの磨く瓶から煙のようなものがでる)
魔法使い
「ごほっ、ごほっ(むせて)……お、おめでとうございます………ごほ、ごほっ……」
マリコ
「……おめでとう…」
魔法使い
「……………?……???うん?」
マリコ
「…うん?えっ?」
魔法使い
「ん?…………えへん(咳払いして)…ご用は何でしょうか」
マリコ
「…ご用?」
魔法使い
「……?うーん?…いえ、私をお呼びになった…ということは……」
マリコ
「呼んだ?あたしが?」
魔法使い
「何か用がおありでございましょう」
マリコ
「………あのねぇ、あたし、用はないし、呼んでもない」
魔法使い
「…オホン。あなた様は…」
マリコ
「マリコ」
魔法使い
「マリコ様は…私の…ほら、そこのコバルトブルーの瓶、その瓶を、きゅっ、きゅっ、と…………」
マリコ
「…これ?」
魔法使い
「そうでございます」
マリコ
「(瓶をとりあげて)暮れの『のみの市』でみつけたん。きれいやろ。見たとたん、気に入ってん、色も形も。底のところがまるうて、平とうて、それにこの色…」
魔法使い
「コバルトブルーと言ってください」
マリコ
「ええ色やろ。海の色やねん、これ」
魔法使い
「…ははーん…マリコ様は何もご存じない。……ごほん、おほん。失礼いたしました。私は、その瓶、美しいコバルトブルーの瓶に住んでいるもので、名前はスユオアジチ・ピ・オサシ・ミセセコマナココ……アジンララと申します。キュッキュッと瓶をこすってお呼びください。いつでも飛び出してご主人様のお手伝いをさせていただきます、です。」
マリコ
「……ふーん……なんや知らんけど…魔法使いやな……あっ、ちょっと待って」
(マリコ、トランプをくり、占いを始める)
魔法使い
「一人でトランプでございますか」
マリコ
「そう、新しい年のあたしの運、占うとんやないの」
魔法使い
「(のぞきこんで)スペードの7とクラブの7、で、エースが3枚。フルハースではございま せんか」
マリコ
「……あっ、もうー、黙っといて。ポーカーしてんやないからね。あーーー、もう一回や」
(マリコ、トランプをくる)
マリコ
「去年、ろくなことなかってん。大晦日にはサイフを落とすわ、クリスマスはすっぽかされるわ…」
魔法使い
「恋人にでございますか」
マリコ
「ええやろ、誰でも、ほっといてんか…お正月早々こけるわ…」
魔法使い
「あわてものでございますな」
マリコ
「何いうとん。うちはちっとも悪うないんよ。初詣、すっごい人で、押されて、こけてん…で、新しい着物どろどろ…」
魔法使い
「私がお供しておればそのような目にはお合わせしませんでしたのに」
マリコ
「ツいてないやろう…だから…占ってんの」
魔法使い
「なるほど。アジンララ、やっと、納得いたしたでございます。…で、ご用は?」
マリコ
「用?」
魔法使い
「ご用がおありでないならば、私としては帰らせていただきたいのでございますが…」
マリコ
「……そうや!ワイン、飲もうか」
魔法使い
「はい、マリコ様」
(ワイン、グラスをもってくる)
マリコ
「一緒に飲もう」
魔法使い
「なんと、お優しい」
(お互い、グラスにワインを注ぐ)
マリコ
「1998年、ものすごくええ年になるようにかんぱい!」
魔法使い
「マリコ様に、乾杯!」
(ワインを飲む。 マリコ、再びトランプをくる)
魔法使い
「占いより、私にご用を」
マリコ
「ご用、ご用って、うるさいなぁ。別に用はないもん」
魔法使い
「いいえ、私のほうがトランプより何万倍も役に立ちますです」
マリコ
「そ?じゃあ、かっこええ恋人、みつけてくれる?」
魔法使い
「もちろんでございます。恋は得意分野でございます」
マリコ
「得意分野?」
魔法使い
「はい、いろいろなお方、何十万人、いや、何百万人のお方のお手伝いをさせていただきましたことかー」
マリコ
「おおげさやなー」
魔法使い
「(思い出しながら)愛の告白をご本人のかわりにしたこともありますし、ラブレターは数知れず。夜な夜な、お姫様の所に行かれる方のお供をして、見張りもやりました…美しいマダムがお休みになるまで…ふふふ…添い寝もいたしました…」
マリコ
「へえー…で、どうだったの?」
魔法使い
「(うっとり)みんなうまくいきましたでございます」
マリコ
「ほんまかいな…でも、なんか古いよね。その恋のパターン」
魔法使い
「…あー、マリコ様、あなた様はとってもかわいくて、チャーミングであらせられますが、少し勘違いでございます」
マリコ
「勘違い?」
魔法使い
「私、ざっと…三千年、コバルトブルーの瓶を住家にしてからでも…千五百年ばかり。生きて、人にお仕えしておりますが、恋は…恋する人の心だけは古いも新しいもございません、です。告白以前のときめき、恋する喜び……三千年前も、百年前も、同じでございますです」
マリコ
「ふーーん…だから、あんた、」
魔法使い
「アジンララ」
マリコ
「アジンララもずっと得意分野でやってこれてんだ…」
魔法使い
「いえいえ、まだまだ。私も未熟者でございます。夢は歴史に残るような恋の助っ人になることです」
マリコ
「夢?あんた…アジンララみたいな人にでも夢とかあるの?」
魔法使い
「そりゃあ、私にだって、ありますです」
マリコ
「夢なんか魔法で全部かなうんやない?かなうってわかってるの、夢っていわへんやろ?」
魔法使い
「ところがでございます。そうはいかないんでございます。人間という生き物は、いいことばかり望むとはかぎらないものでして。そこが、私、いまだ未熟なところでございまして…つい、恋をとりまとめることばかりに一生懸命になりまして…お相手をひどく憎んだり、別れたいとかいう人間もおりまして…失敗するのでございます…」
マリコ
「魔法使いいうても、アジンララはドジなんや……そりゃそうや。きのうはあんなに好きやった思うても、今日は嫌になることあるもんな…」
魔法使い
「そこでございますよ、マリコ様。我々、魔法族はそこいらははっきりしてますです。いい魔法、悪い魔法と言う具合に。人間っていう生き物はそのあたり、好きと嫌い、悪いといいがはっきりしませんですし、移り気でございますねえ。」
マリコ
「…なんか、自分、人間をバカにしてない?そんなん言うてほしないわ。人間って、ええでー。恋は、そりゃ、あんた、」
魔法使い
「アジンララ」
マリコ
「アジンララの言うみたいに、かのうてばっかりおったら、おもしろないやろ?」
魔法使い
「おもしろない?…」
マリコ
「そう。うちのこと好いてくれるか、くれへんか、わからへんからドキドキするんやないの
魔法使い
「それはそうでございます。大昔からその通りでございます」
マリコ
「別れたなったり、なんやひどいこと言うたりしても…ほんでも、うち、人間が好きや。人間のこと信用しとう」
魔法使い
「(拍手して)マリコ様、私はうれしゅうございます。勘違いのご主人様でちょっぴり、がっかりしていましたでございますが、なかなかどうして、私好みのご主人様でございます」
マリコ
「アジンララのタイプ?あんまりうれしゅうないけど」
魔法使い
「私は長い間、人間を観ております。人間はバカなこともいっぱいしておりますですが、それほどバカじゃないと、私も信じております です。」
(トランプをくる音)
マリコ
「初めて、意見合うたなー。……あっ、ちょっと、ちょっと………見て、見て。ええカード出たわ。キングにジャックやろ、クイーンに10、それにエースや」
魔法使い
「ロイヤルストレートでございますよ」
マリコ
「ポーカーちゃう、言うてるやろ。それに、見てみ、全部ハートや」
魔法使い
「ロイヤルストレートフラッシュでございますよ」
マリコ
「ばんざーい!今年こそ、ええ男出てくるでー」
(マリコひとりで浮かれてる)
魔法使い
「……ふうー、ご用がないようでしたら…私は初夢の続きを見たいのでございますー」
(ボワッと煙が縮む音。 マリコ一人でトランプ占いをしている)