- ジャン
- 「ベベ、ベベ……ベベ…
こうして君の名を口にするだけで、
ぼくの心は幸せに満たされる。
君のバラのような唇、燃える瞳
ベベ、ベベ…
もう、君なしではぼくは生きていけない
息さえできない」
- ベベ
- 「私の愛しい人、ジャン。
ゆうべ、あなたのお名前を大きな字で書いて枕の下にしのばせました。
夢の中であなたにお会いするまでは目覚めないと決めて。なのに、あなたはひどい人。
どうして会いに来てくださらなかったの?
ああ、でも許してさしあげます。
今朝は小鳥たちがとてもいい声で鳴いていますもの。風がとても気持ちよく吹いていますもの。」
- マリコ
- 「うまくなりたい。今日ほどそう思ったことはなかった。
『人を愛したことないの?』
屈辱的な言われ方」
- 木崎
- 「うそっぽい台詞だよな。マリコでなくても泣きたくなるよ。
だけど、これこそ芝居、これこそ台詞、だよな」
- ジャン
- 「ベベ、君が片時でも見えないとぼくの心は乱れる。君の魅惑的なまなざしが他の誰かに向けられているのじゃないか。柔らかな肌に誰かが触れはしないか…
愛するベベ。
君の心は変わりはしないだろうね。
ぼくの想いは、君への思いは永遠だ」
- マリコ
- 「台詞が入らなくなってしまった。気がつくと、台本を手に夜の公園。半円形の小さな野外劇場。私はステージ中央に立つ。
『永遠?』『永遠?』……
(何度も調子を変えて台詞を声にしてみる)
- ベベ
- 「永遠?愛にそんな約束はあったでしょうか?
鳥が飛び立つように、水が流れるように、時はいつも過ぎ去っていきますわ。ジャン、約束してくださいな。もうこれ以上私の心を盗まないと」
- (木崎、公園にやってくる。ステージにマリコをみつける。ゆっくり近づきながら)
- ジャン(木崎)
- 「盗んだのはベベ、君の方。ぼくはもう、ひたぶるに君のもの。もはや限りなく君のもの」
- マリコ
- 「木崎くん?!どうして?」
- 木崎
- 「どうもうまくいかなくってさ。キャラクターが遠すぎるのか、台詞が近すぎるのか…」
- マリコ
- 「なんか私、今日、みっともなかったよね」
- 木崎
- 「気にすんな」
- マリコ
- 「昔人は、本当にこんな風に愛を告白していたのかしら…」
- 木崎
- 「くすぐったいよな、この甘さ。けど、普遍的だよな、この台詞」
- マリコ
- 「木崎くんもこんな風に告白するの?」
- 木崎
- 「えっ………」
- マリコ
- 「ふふふ…あわててるー。ちょっと思っただけ。木崎くんの愛の告白はどんなんだろうって…」
- 木崎
- 「マリコにからかわれたら、俺、立つ瀬ないな」
- マリコ
- 「…そっかー…木崎くんも思ってるんだ。マリコは人を愛したことがないって」
- 木崎
- 「思ってないよ、そんなこと。一度も人を愛したことがなくって、そんな幸せな顔をしたやつはいないからな」
- マリコ
- 「幸せな顔してる?私が?……木崎くんは?」
- 木崎
- 「俺?…俺も幸せな面してるんだろうな」
- マリコ
- 「うん、してる。………木崎くんも人を愛したことがある。私も……大好きな人がいる…」
- 木崎
- 「大好きな人?」
- マリコ
- 「…そう……なのに…どうしてうまく出来ないんだろう……」
- ジャン
- 「ベベ。愛している、愛している…ぼくの愛はもう、限りがなくなってしまった。銀河の果てに届くまで言い続けよう…君を愛している、愛している、愛している……」
- ベベ
- 「私の愛しい人、ジャン。
ぬけるように青い今日の空に誓って、
金色に輝く太陽にかけて、
愛する心においては、
私の方が勝っていましてよ」