- 七月。
小さなアパート。
同棲している二人。
二人とも二十二、三歳。
男はフリーター。女はOL。
つきあいはじめて半年ほど、
暮らしはじめてまだ、四、五ヶ月といったところ。
なんでもない夜、夕食をすませて二人でビールを飲んでいる。
- オトコ
- 夏やなぁ。
- オンナ
- うん、夏やね。
- オトコ
- 夏、来たなぁ。
- オンナ
- (笑)そうや、夏や。
- オトコ
- あっつう!
- オンナ
- (笑)そら、しゃぁないわ、夏やもん。
- オトコ
- な、ビール。
- オンナ
- 早いなぁ、ハイ。(ビールを注ぐ)
- オトコ
- ああ、遊びたいわぁ。
- オンナ
- 何ゆうてんのよ、いっつも遊んでるようなもんやんか。
- オトコ
- …きっついなぁ。
- オンナ
- …なぁ、もうすぐお祭りやんなぁ。
- オトコ
- え?ああ、そうやなぁ。
- オンナ
- わたし、お祭り好きでなぁ。
- オトコ
- ふーん。
- オンナ
- 去年な、一緒に行ってくれる子いてへんかったからな、一人でいってん。
- オトコ
- 気色わる!
- オンナ
- しかも、浴衣着て。
- オトコ
- うわ、それ恐いで!
- オンナ
- (笑)そうか?
- オトコ
- めちゃめちゃ恐いわ。みんなに振り返られへんかったか?
- オンナ
- ううん、別に。誰も他人(ひと)のことなんか見てへんわ。ひととおりプラプラ歩いて、花火見て、ビール飲んで帰ったわ。
- オトコ
- 変やわ、それ、変やわ。
- オンナ
- そうかなぁ。だって、友達みんな、なんやかんやで一緒に行かれへんかったし、わたしは、どうしても浴衣着てお祭り行きたかってんもん。しゃぁないやん。
- オトコ
- まぁ、ええけどな。
- オンナ
- な、お祭り、一緒に行ってくれる?
- オトコ
- イヤ。
- オンナ
- なんでよぉ?
- オトコ
- いややわ、人多いもん、俺、嫌いやねんあんなん。
- オンナ
- お祭り嫌いな人なんかおんの?
- オトコ
- おまえ、行きたかったら、また一人で行ったらええやん。
- オンナ
- …ひっどぉ。二人で行きたい女心がわからへんの?一人やったら行かへんわ。
- オトコ
- 去年は一人で行ったんやろ?今年も行ったらええやん。
- オンナ
- ちゃうの。一緒に行きたい人がおるのに一人で行くのはいややの。
- オトコ
- …あんな、俺はな、そういうヤツやねんて。なんでわざわざ人いっぱいの所を歩かなあかんねんな。おまえは行きたくても俺は行きたくないねん。しゃぁないやろ。あきらめ。…な、ビール。
- オンナ
- …アホ、自分で注いで。
- オトコ
- …なんやねんな、もう…(ビールを注ぐ)
- オンナ
- 一緒に歩きたいって、あたりまえの感情やと思うけどなぁ。
- オトコ
- おまえの「あたりまえ」と俺の「あたりまえ」は違うねん。
- オンナ
- そうかもしれんけど…あーあ。
- オトコ
- 俺は一生そういうヤツやからな。
- オンナ
- あーあ。(さらに大きなため息)
- オトコ
- (笑)(甘えるように)なぁ、祭行ったらな。
- オンナ
- 何よ、行かへんわ。
- オトコ
- どっちでもええけど、行ったらな。
- オンナ
- 何よ。
- オトコ
- たこ焼買うて来てな。
- オンナ
- たこ焼?
- オトコ
- ビール冷やして待っといたるわ。
- オンナ
- …行かへんわ、アホ。
- オンナ
- …な、ビール。
- オトコ
- あんまり飲みすぎんなよ。(ビールを注ぐ)
- オンナ
- うん。…なぁ、わたしがたこ焼嫌いやったらどうする?
- オトコ
- うそ!たこ焼嫌いなヤツなんかおんの?
- オンナ
- (笑)知らんけど、どっかには居てるやろ。
- オトコ
- はぁ、それはえらいこっちゃな。
- オンナ
- (笑)ほんまや、誰かの「あたりまえ」なんてイイカゲンなもんやぁ。
- オトコ
- (笑)そやろ。
- オンナ
- ここにこうして居てるのは?
- オトコ
- はぁ?
- オンナ
- あたりまえ?
- オトコ
- え、…なんやねんな。はずかしいやっちゃな。
- オンナ
- ふうー。(ため息)
- オトコ
- (笑)そやな、普通やな。…あたりまえや。
- オンナ
- …そう。(うれしそう)
- オトコ
- (甘えた声で)な、たこ焼買うて来てな。
- オンナ
- (笑)知らんわ。
- オトコ
- ちょいちょい(おいおい)、つまみないで。(テーブルの小皿をカチカチさせる。)
- オンナ
- もう!
(「早よせぇアホ」「なによ、うるさいなぁ」楽しそうである。)
間
(先程までとは違う空間)
- オンナ
- 「あんたらのは、〈生活〉というより〈生活ごっこ〉やって母親に言 われた。けど、このバカバカしく過ぎていく時間が私は大事。 … な、そやんな。」
- オトコ
- 「え、…なんやねんな、おまえ、ハズカシイこと言うな、あほボケカス」
- 終わり