- 健吾のワンルーム。 深夜。
ビールを呑みながら、なんとなくテレビを見ている健吾。 チャイムが鳴る。
- 健吾
- 誰やろ?
ドアを開けると、妹の元子が立っている。
- 健吾
- どないしてん?
- 元子
- …
- 健吾
- まあ、入れや。
ふたりして、座卓の前に座った。
- 健吾
- ビールでも呑むか?
- 元子
- …うん。
健吾、ビールを出してやる。
- 健吾
- そら。
- 元子
- ありがとう。
- 健吾
- そや、金、返すわ。ボーナス入ったから。
健吾、財布からお金を出して数える。
- 元子
- お兄ちゃん、泊まってもいい?
- 健吾
- ええけど…どないしてん?
- 元子
- ウチに帰りたないから。
- 健吾
- オカンと喧嘩でもしたんか?
元子、プルリングを開け、ゴクゴクとビールを呑む。
- 元子
- ああ、美味し。
健吾、テレビを消す。
- 健吾
- 今日のオマエ、変やな。
- 元子
- (立ち上がって)お兄ちゃん、あっち向いてて。
- 健吾
- なに?
- 元子
- シャワー浴びるから。
- 健吾
- ああ。
元子、服を脱ぐ。健吾、背中を向けている。
- 元子
- お兄ちゃん。
- 健吾
- うん?
- 元子
- アタシ、女として魅力ない?
- 健吾
- …急に、なんや?
- 元子
- やっぱり、いいわ。
元子、ユニットバスに入る。シャワーの流れる音。
- 健吾
- シャワーの流れる音に隠れて、元子は嗚咽していた。
オレはぼんやりテレビを見ながら、困っていた。きっと元子はけろっとした顔で出てくるのだろう。知らぬふりを決め込むか、じっくり話を聞いてやるか。やっぱり、オレは頼りにならない兄キだった。
回想。音楽。
- 元子
- お兄ちゃん、元気だしって。他にもいっぱい女の子いるやんか。お兄ちゃんの魅力が分かる娘(娘)は他におるって。お兄ちゃんのこと分かれへん娘のこと、いつまでも追っ掛けててもしゃあないやん。
健吾がコーヒーカップを投げた。砕けるカップ。
- 健吾
- オマエにオレの気持ちが分かるか!
- 元子
- …アホ!
音楽とクロスして、野菜を刻む包丁とまな板の音。ガスをつけ、フライパンで油がはじける。健吾がチャーハンを作っている。
元子がユニットバスから出てくる。
- 元子
- ああ、さっぱりした。
- 健吾
- 喰うか?
- 元子
- チャーハン?
- 健吾
- オレが作れんのは、これだけやろ。
- 元子
- 早よ、ヨメサンもらわなあかんな。後がつかえてますよ。
- 健吾
- ほっとけ。
健吾が座卓にチャーハンを並べた。
- 元子
- いただきま?す。
- 健吾
- ソース。
- 元子
- うん。
ふたり、食べながら
- 健吾
- オレ、元子みたいな娘、捜すわ。
- 元子
- アテあるん?
- 健吾
- ないこともない。
- 元子
- お、隅におけにあね、兄キも。
- 健吾
- ほっとけ。
- 元子
- 好み変わったん?
- 健吾
- 学習の成果や。
- 元子
- そやけどお兄ちゃん、自分のこと棚に上げて、面食いやからな。
- 健吾
- 一言多い。
- 元子
- ほんまにアテあるん?
- 健吾
- ま、あたってみな、分からんけどな。
- 元子
- そういうの、アテって言わへんのんちゃうん。
- 健吾
- オマエの方はどうやねん?
- 元子
- (立ち上がって)ビール、もう一本もらうよ。
- 健吾
- ああ。オレも取ってくれ。
元子、ビールを冷蔵庫から出してきて。
- 健吾
- (受け取って)サンキュー。
- 元子
- (ビールをひと口呑んで)アタシもお兄ちゃんみたいな男捜すわ。
- 健吾
- お、オマエもやっと大人になってきたな。
- 元子
- やっぱり長く付き合うんやったら、スルメみたいな男(ひと)がいいわ。
- 健吾
- なんや、それ。
- 元子
- 噛めば噛むほど味がある。
- 健吾
- オレはスルメか。
- 元子
- じゃあ、アタシは?
- 健吾
- そうやな…谷間のユリや。
- 元子
- なに、それ?
- 健吾
- 人知れず美しい。
- 元子
- (吹き出して、げらげら笑う)真面目な顔して、慣れへんこと言わんといて。わらける。
- 健吾
- 失礼な奴やな。
- 元子
- あ、顔あかなってる。
- 健吾
- ビール呑んでるやろ。
- 元子
- あ!
- 健吾
- うん?
- 元子
- ちょうどいて!ちょっと!
- 健吾
- なんや?
- 元子
- すけべ!アタシが服脱いでた時、背中向けてる思ったら、そこの鏡で見てたやろ。ウワァ、最低な奴!
- 健吾
- 見てへんて。誤解や、それは。
- 元子
- ウワァ!ちょっと、離れて。早よ、離れて!危険やわ。アタシ、やっぱりウチにかえろうかな。
- 健吾
- オマエ、ちょっと言うてええことと悪いことがあるんちゃうか。
- 元子
- 妹の裸見て欲情する男が、もっともらしいこと言わんといて。
- 健吾
- …たまらんわ、コイツ!
- 元子
- どっちが、たまらんのよ!
音楽。
- 健吾
- その晩は、結局、一つしかないベッドを取り上げられて、オレは床に座布団を敷いて丸くなった。ビールを呑みすぎたせいもあったけど、なんだか、やけにほっとして眠れた。