- 女
- お花屋さんの店の中
もう春の花でいっぱい
おひなさまのももの花も
菜の花も
桜草も
名前の知らない花も
この二月は寒いけれど
かならずもう少しで春がきますよってね
- 男
- 女の子は花屋さんを
そうして見ているんだね
- 女
- 冬中部屋の中に入れていた
カポックやおりずるらん
花のおわった葉だけの鉢
そうそうしあわせの木も
去年からまだ咲き続けている
真っ白な胡蝶蘭
クリスマスのツリーなった
ゴールド・クレスト
わたしのお友達なの
あのね
木にも花にもひとつずつの
妖精が住んでいるんだって
かわいいわねえって
賞めるとその木の命その花の命が
ながくなるそうよ
- 男
- ぼくは海べりで風に押されて
曲がりながらも
何十年もがんばっている
松の太い幹なんか見ると
すごいなあって
声に出してしまう
須磨の天神さんにも
大きないちょうの木があった
樹齢何百年なんて木なんかもう
自分が小さい小さいって
なにかに悩んでいても
悩んでいることがおかしくなってしまう
- 女
- そうね
生きているということになにか
意味を見つけたいと
私はいつも考えているのに
木はじっとおなじ場所で何百年も
春も夏も秋も冬も
どうしてここに立っているんだろう
なんていちいち考えているわけじゃあ
ないのよね
- 男
- 考えていたらどうする?
- 女
- あなたが本当はどう生きていきたいのか
まだ聞いていない
- 男
- うーんむつかしい
今は君とこれから助け合って
生きていけたら
いやなことでも
乗り越えられそうな気がする
結婚するのは恋愛している時と
また違って大変みたいだけれど
二人がしっかりしていれば
いいと思うよ
- 女
- ありがとう
私もがんばれそう
自然に
今のままのあなたと今のままの私が
温室ではなくて
夜になると
そんなに暖かくない
私の部屋の中なのに
小さな芽をだしている
シンビジュウムのように
ゆっくりゆっくり
生きていけたら
うれしいな
- 男
- 須磨の海にある松の木
何本あるのだろう
一度数えてみたいね
数えた松がたぶん
ぼくたちが
二十年たっても
三十年たっても
おなじだけの数の松の木が
少し幹が太くなったくらいで
海にむかってたっているんだ
やっぱりすごいなあ
やっぱりすごいよ
- 女
- モーニングカップ二つと
スープ皿二枚
花柄のテーブルクロスに
あなたの好きなラーメン鉢二つ
湯呑みも茶わんも二つそろったのは
大きさが違うのよね
あれはいや
なんだか昔の
ご主人さまって感じしない?
私たちはおなじ大きさにしましょう
ああそれから部屋にたくさんの
植木鉢おいてもいい?
何年も育ててきた植木たちも一緒に
緑色の鳥も飼いたいな
ああ白い猫も
できたら耳のながい犬も
でもずっと後でいいわ
- 男
- ぼくは
君と仲良く毎日暮らしていけたら
今はなにも思いつかないよ
春よ早く来いだね