- 登場人物
- 1.男
2.女
- 男
- 君の誕生日がくるね
寒いときに生まれたんだ
- 女
- 日曜日のお昼すぎに生まれたの
えびすさんの日で
医者が早く生まれて
西宮のえびすにいかせてくれって
わたしが聞いたわけではないけれど
- 男
- 商売繁盛ささもってこいだ
ぼくは ものすごい人波におされて
いったことがあるよ
なんの花がきみは好き?
たくさんは出来ないけれど
誕生日に花束のプレゼントなんて
すこしキザかな
- 女
- うれしいな
赤いチューリップの花がいい
三日後ぐらいにしか開かない
硬いつぼみの
もしかしたら
赤い花じゃあないかもしれない
ドキドキして開くのを待っている
開いたら
花の真ん中に親指姫が
ああ どうしよう
赤いちゅうりっぷが大好きなの
赤じゃあないとだめなの
- 男
- すごい
そんなに赤いちゅうりっぷが好きだって
知らなかった
- 女
- ちゅうりっぷのことなら聞いて
オランダじゃあなくて
トルコの国が原産地なのよ
今は改良されてしまったけれど
トルコのアナトリア地方には
道のふちに咲いているんだって
そうそうトルコじゃあなくて
昨日ブータンの古い建物の調査に
行っている
友達から絵はがきがとどいたの
伝統的な家が並んでいて
町並みがとってもきれいです
日本に着物に似た民族衣装で
どの人も明るくおだやかな感じです
標高2400メートルにある首都は
人も町も日本の近世にに戻ったようです
この国がとても気にいってしまいました
と書いて合あったのよ
切手はぞうの絵
いいわねぇ
あちこちの国へ仕事でいけるなんて
- 男
- 古い建物を保存していく
仕事はたいへんだと思う
須磨の離宮道ぞいにある
ぼくの大好きな木造三階の洋館の家
新聞に登録文化財の第一号だって
載っていた
この家はこれでずっと大丈夫だ
地震で屋根が壊れていたから
持ち主がつぶしてしまわないか
通るたびに心配していたんだ
大きな古い家が須磨には
たくさんあったのにほとんど
地震でつぶれてしまった
- 女
- えんとつがあって
家とおなじ高さの女の子
また家とおなじ高さで
ちゅうりっぷが咲いていて
空はかならず青くて
子供の時
お絵書きで遊ぶ時に書いた家と
離宮道を歩いていたら
よく似ていた
絵本の中にでてくる家のよう
私もあの家大好きよ
古い建物を見ると
がんばれって声をかけたくなるわね
今でも
その時に描いた絵がとってあるの
胴体からまっすぐの手がでていて
足もぼうが二本
そんな絵を描いていた頃のこと
なつかしい
そういえばもう長いあいだ
クレヨンで絵を描くことがないわ
もうクレヨンもないかもしれない
- 男
- 絵を描くこともあまりないね
展覧会に行くのは好きだけれど
二人でスケッチブックを持って
春になったら
なつかしい硬いクレヨンで
写生にいこうか
君の描いた絵をもらって
ぼくの部屋の壁にはるよ
- 女
- どうして毎年 誕生日がちかづくと
気持ちがそわそわするのかしら
誕生日の翌日なんて
もうなんてことはないのに
- 男
- 女の子だけかもね
ぼくはそわそわしたりしないよ
じゃあ 誕生日には
君の好きな赤いちゅうりっぷを
花束にして会いにいこう
- ENDING