- 男
- ね、確か今日だよね、二人が新婚旅行から帰ってくるの。
- 女
- そうでしょ。あっこちゃんが昨日、そんなこと言ってたもん。
あなた、二人に早く帰って来てほしいの?
- 男
- そりゃ、決まっているじゃないか。だってあっこちゃんの作るご飯ったら、いつも同じなんだぜ。
- 女
- だってしかたないわよ。あっこちゃんはただ、二人が残してくれたレシピ通りに、私たちのご飯を作りにきてくれるだけだもの。
- 男
- あっこちゃんてさ、コースケの何? 美人だね。
- 女
- 妹よ。ちょっとあなた、私のコースケを呼び捨てにしないでよ。
- 男
- じゃ、どう言えばいいのさ。
- 女
- コースケさん。 私だって、あなたのレイコさんには、敬意を表して、レイコさんて呼ぶわよ。
- 男
- あーあ、これからのこと考えると気が重いよ。俺、生まれてからずーっと、レイコと二人で気楽に暮らしてきたんだぜ。
- 女
- 私だってそうよ。 私だって、コースケと二人だったのよ。
お風呂だって二人で入って、寝るときだって、いつも一緒だったんだから。
私、コースケの足の間で眠るのが大好きだったのよ。
それなのにレイコのやつったら!
- 男
- レイコさんって呼ぶって言ったろ。やきもちはみっともないぜ。
- 女
- ご飯だっていつも、食べやすいようにコースケが口の中で噛み砕いてから私に食べさせてくれたのよ。
- 男
- ちぇ、過保護だよなあ。 レイコと俺の関係はもっとクールだぜ。
レイコは俺のこと、ホーロー者って呼ぶんだ。かっこいいだろ。
俺、しょっちゅう出歩いてるからさ。
- 女
- 出歩いているって、どこ行くの?
- 男
- いろいろさ。君、一度もホーローしたことないの?
- 女
- ないわ。 だって、コースケは、絶対に家から出してくれないのよ。
- 男
- じゃ、今度連れてってやるよ。
- 女
- 本当!?
- 男
- ああ。ここならいつでも抜け出せるしね。もう見つけてあるんだ、抜け穴。
- 女
- すごい!新築の家でも抜け穴ってあるんだ。
- 男
- ああ。ここならいつでも抜け出せるしね。
- 女
- すごい!新築の家でも抜け穴ってあるんだ。
- 男
- きっと、レイコがコースケさんに内緒で作ったんだ。俺のために。
大工さんにこっそり頼んでさ。
- 女
- 人間って、どうして結婚式なんてあげるのかしら。ふしぎ…。
- 男
- すっげえごちそうが出るんだぜ。君も貰ったろ。残り物。
- 女
- あっこちゃんが持ってきてくれた、あのお頭付きのタイ?
- 男
- うん。
- 女
- でも、タイって、おいしくない。私はサンマの方が好き。
- 男
- 俺も。
- 女
- 私たちって、食べ物の好みだけは合うみたいね。
- 男
- ああ。
- 女
- 考えたら、私たち、振られた者どうしなのね。あなたはレイコさんに、私はコースケに。
- 男
- ちょっと、オーバーじゃないか。
- 女
- 私、あなたに、シンパシイを感じるわ。
- 男
- シンパシイ?
- 女
- コースケが言っていた言葉。二人の人間が、ある種の哀しみをわかちあうことですって。
- 男
- 人間じゃないだろ俺たち。でも、その、シンパシイってさ、ひょっとして、愛に変わることってない?
君って、結構、魅力的だね。
- 女
- (おもわせぶりな甘え声を発したのち)
…あ、足音がする… 帰ってきたわ!
- 男
- もー、いいところだったのにぃ。ま、いいか、続きはまたこの次にしてと。
では、ご主人様のお出迎えといきますか。
- 二人
- 「ニャオーーーン」