- (チャペル。結婚式前の華やいだざわめき。
しばらくして、はじまりを告げる鐘の音が響く)
- 耕平
- 白いロードの向こう、頬を輝かせた陽子が立っている。
オルガンのふるえる音色がチャペルを包む。
動悸が高まる
陽子はお父さんと腕を組み、顔を上げ、俺に向かってまっすぐ歩いてくる。
- 陽子
- 結婚式は教会でって思っていた。
昔見た外国映画。
??花嫁は少しうつむいて、かっこいいお父さんと白いロードをゆっくり進む。??
えーっ、…父さん…変だよ、歩き方……リズム、合わせてよー、ほら、いーち、にーい、一、二…
- 耕平
- お父さんは組んでいた陽子の腕をほどくと、そっと、陽子を押し出した。
陽子と俺は並んで祭壇の前に立つ。
賛美歌が厳かに響いた。
陽子がキリッと口をむすぶのがわかった。
俺も背筋をのばす。
- 陽子
- どこかで聞いたことがある。
どこかで歌ったことがある。
賛美歌。
島のおばぁちゃんも、ユキも舞子も……みんなが歌っている。私たちのための祝いの歌。
- (病めるときも、健やかなるときも……)
- 耕平
- 「耕平、あなたは陽子を妻としますか」
問の答えは、はっきり、くっきり、大きな声だぞ、耕平。……なのに……
「はい」
気持ちとは裏腹に声はうわっずっていた。
- 陽子
- ここは一番厳粛なシーン。
映画では確か、花嫁、花婿、二人の顔のクローズアップ。
わっ……耕平…裏返ってるよ。声。
- 耕平
- 「誓いのキスは好きなところに軽くですよ」
牧師はにっこりほほ笑んで、そういった。
陽子との約束は左のほっぺ。
そっとベールを上げる。陽子のふっくらした唇が目に入った。
ふっ、ふふっ…
小さい笑いで空気が一気にやわらいだ。
えっ?……
- 陽子
- えっーー、耕平、約束違うよ。
ほら、みんなが見てるわ。
思わず私は耕平をかわす。耕平の突き出した口はすべって左のほっぺにふれた。
- 耕平
- 「指輪の交換です」牧師が前に進み出る。
指輪に掘られた日付はプロポーズの日。
海沿いの道を夕日に向かって走りながら、俺は力強くいう。
「結婚しよう」
一瞬の沈黙の後陽子は一言「はい」と答える。
思いっきり考えた、思いっきりのシチュエーション。
なのに、大渋滞。
太陽はとっくに沈んでしまっていた。
- 陽子
- ドライブの帰り、渋滞する国道をさけ、左に大きくカーブをきった時だった。
「結婚しよっかー」
耕平はさらりといった。
「なんでこんなに混んでんだよー」
ぼやいた続きの台詞だった。
だから、
「そうしよっか」
私も軽く答えた。
- 耕平
- チャペルの扉が大きく開かれた。
秋の日ざしが鋭く差し込む。
白くハレーションを起こした目の前にフラワーシャワーが降り注ぐ。
最高の笑顔を見せる陽子もストップモーション。
陽子は空高く投げ上げた。
- 陽子
- 空がぬけるように青い。
まばゆさに思わず目をとじた。
網膜に耕平の笑顔がやきつく。
映画ならここで終わる。
でも、耕平と私はここから始まるのだ。
-
- 拝啓 お元気ですか。
私たち結婚しました。
夢と希望と…愛にあふれています。
是非、見に来てください。
十一月十五日 耕平
陽子