どんな花ならいいの?
花びらがハラハラと散っていくようなのが好きなの。
コスモスとか。
コスモスか。花屋に売ってるかな。
その辺に、咲いてるわ。
いいの? それだけで。
何が?
つまり、その… 今夜の…
ええ。
…かわった女だ。金は要らないから花をくれだなんて。
そういえば、この部屋は花だらけだ。
壁という壁。棚という棚。
天井までも、枯れた花で一杯になっている。
命のない花。いろんな男との、愛のない交わり。
この部屋、散らかってるでしょ。いつも、整理することばかり考えているんだけど、全然片づかないの。
…片づかないのは、僕の方だって同じだ。
心の中の何もかもが、整理させないままの状態で散らかっている。
女に誘われるまま、中途半端な気持ちで、こんな所まで来てしまった。
ね、その窓から、観覧車が見えるでしょ。
好きなの?観覧車が。
好きなのかな… そうね、多分、好きなのよね。
ここに住んでいるのも、窓から観覧車が見えるからよ。
子供の時は、高いところが怖かったの。もりお君って、仲良しの男の子がいてね、一度だけ一緒に遊園地へ行ったわ。
観覧車に乗ろうって誘われたけど、私、怖かったから、乗らずに待ってるって言ったの。
でも、いつまで待っても、もりお君、下りてこなかった…
女は、観覧車に乗ったまま、下りてこなかった幼なじみのことを話していた。
私、今でも待っているの、もりお君を。
遊園地では、カーニバルが終わりかけていた。
音楽が、とぎれとぎれに聞こえては消える。
ほら、また、回り出した。
ひかりの箱は、女を乗せて、空へ空へと登っていく。
別の箱には、今も、もりお君が乗っているのかもしれない。
その下の箱にいるのは、ひょっとして、僕ではないのか。
けれど、どの箱も、箱と箱は、永遠に、近づくことはないのだ。
 
その夜は、一晩中、花の香りがして、僕を悩ませた。
女の夢の中で、枯れた花たちが、命をふきかえしていたのかもしれなかった。