- 女
- もしもし
何しているの?
今朝ね、外の植木鉢の底に
こおろぎが二匹いたの
そっとつかまえて
部屋の中にある
カポックの植木鉢の中にいれて
仲良くしましょうね
声をかけたら
とってもきれいな声で
返事をするように啼きだして
それから時々
本当に時々
思い出したようになくの
- 男
- かごにいれなくて
よく逃げ出さないね
- 女
- 三年前はずっと
下駄箱のうしろにこおろぎが
住みついていたのよ
- 男
- へんな家だ
- 女
- へんなのよ
なにを食べていたのかしら?
冬になって
こおろぎのこと
すっかり忘れてしまって
- 男
- いつのまにか こおろぎが
いっぱい友達をつれてきて
君の部屋が
こおろぎの部屋になったら
- 女
- その時は
あなたの部屋に
引っ越してもいい?
- 男
- 早くこおろぎが
君の部屋に
ともだちを連れてくるといいな
- 女
- あなたの部屋の
窓から何がみえる?
- 男
- うーん 大きな
三角のピラミッド
石の角が
すりへっている
一番下から いくつの石が
積まれているのだろう
あっ
ラクダの隊列が
むこうのほうから
こちらにやってくる
- 女
- そのラクダには
王子さまと
王女さまがのっているのよね
- 男
- 本当のラクダの背中は
すべって座りにくいんだ
王子さまも
王女さまも
ラクダの背中から
すべり落ちてしまいました
ラクダはどんどん行ってしまいます
砂の上で
王女さまはベソをかいています
- 女
- 王子さまは
泣いている王女さまを
おんぶして
ラクダを追いかけなければ
- 男
- ピラミッドがみえるなんて
いわなければよかった
ここからは
みか月しか見えない
まるい地球の
どこへいっても
形が違うだけで
おなじ月なんだよね
- 女
- こおろぎがなきだしたわ
聞こえる?
- 男
- 須磨の海も
すっかり静かになったね
ヨット・ハーバーの
イタリアン・レストランで
秋色の海を見ながら
次のデートは食事をしよう