- 登場人物
- 1. 男
2. 女
- ? バスの中。走行音。
- 女
- 「どないするのん。」
- 男
- 「うん…。」
- 女
- 「考えてへんかったん…。」
- 男
- 「…うん。」
- 女
- 「…こんなウェディングドレスじゃ外も歩かれへんやんか…。」
- ? 間。
- 男
- 「…買うて来るわ。何か…。」
- 女
- 「…どこで…。」
- 男
- 「どっか、そのへんで…。」
- 女
- 「…。お金あるの?」
- 男
- 「…お前、持ってへんの。」
- 女
- 「持ってるわけないやろ…。」
- 男
- 「…そら、そうやな…。」
- ? 車内アナウンス。「次は…」
男 チャイムのボタンを押す。
- 男
- 「降ります、ここで!」(と女の手を引き)
- 女
- 「…ちょっと、どこ行くのん。…あ、ほら、こけるやんか…。」
- ? 二人、バスを降り、走り去るバスをあとにして、
デパートへ走る。
- 女
- 「ねえ、どこ行くのん」
- 男
- 「デパート」
- 女
- 「ええ?」
- ? 二人入ってゆき階段を登りトイレへ。
女子トイレのドアを開ける。
- 女
- 「どうする気なん?」
- 男
- 「ええから、ここにおって、すぐもどって来るから。」
- ? ドアを閉める音。
男は走り去る。
- 女
- (トイレの中で)「何なん、もう…。ついていけへんわ…。自分勝手なんやから…」(と、ブツブツ…)
- ? やがて、ドアをノックする男。
- 女
- 「もう、おそいわ…」
- ? ジャーと水の流れる音。
- 男
- 「何してんの。早よ、…」
- ? と、ドア開き
- 女
- 「いや、だって、こんなとこおったら、何や…仕方ないやろ…。そんな気になるやん。」
- 男
- 「これに着がえて」
- 女
- 「ああ、…。どうしたんこれ。…悪いことばっかりしたらあかんで。」
- 男
- 「ええから、早よ」
- 女
- 「このドレスどうしよう」
- 男
- 「もう、そこにおいといたらええやん。…オレ、屋上におるし…。」
- ? ドアを閉める。そのドアごしに、
- 女
- 「このさいやから、これ水に流したろか…。」
- ? 屋上。…子供たちなどの声…。遊技広場の音。
眼下の町の雑踏の音がこもってのぼって来る。
- 女
- 「そやけど…ホンマにやるとは思わへんかったわ…。」
- 男
- 「オレかて、何や信じられへん。」
- 女
- 「手…ひいてくれたやろ…。式場で…、はなさんようにって…必死やったん?…ちょっと汗ばんどったで……。……。うれしかったけど…。」
- 男
- 「……。」
- 女
- 「むこうの親、ヤクザと関係あるんやで…。」
- 男
- 「え、ウソ」
- 女
- 「ホンマや…知らんかったん?」
- 男
- 「……知らんかった…」
- 女
- 「…どないすんの。これから…」
- 男
- 「知らん……先のことは…。」
- 女
- 「知らんて……。…そんなん、あかんやん……」
- ? 間。
- 女
- 「カスミ食っては生きていけへんねんで。」
- 男
- 「……。」
- ? 間。
- 男
- 「……家ばかりやな……。」
- 女
- 「……。」
- 男
- 「これだけの数、結婚したヤツらがおんねんなあ……。…家も…これだけ集まったら……。」
- ? 間
- 女
- 「おなかへったわ。」
- 男
- 「……。」
- 女
- 「へらへん、おなか…。」
- 男
- 「……。へってる場合やないやろ。」
- ? 間
- 女
- 「あ、百円みっけ……。」
- ? と、女、拾う。そして、自動販売機で、缶ジュースを買う。リングを開け、女、ごくごくと飲む。
- 女
- 「……飲む?」
- 男
- 「うん…。」
- ? デパートの屋上。ベンチの二人。
街の喧噪が再び、たちのぼって……。
?1996年10月4日