- 男
- 北海道の地図をひろげる
だれもが知っている
札幌とか函館、小樽ではなくて
だれもわざわざ観光のために行かない
電車の線路もなく
一日に朝と昼と夜
三本しかバスの来ないところ
- 女
- いけどもいけども
原生林が続いて
なんてよむのか
チンプンカンのアイヌ語の
バスの停留所を
いくつも通り過ぎて
- 男
- もういいかげんバスに乗っているのが
いやになった頃
おりるんだ
でも
おりてもなんにもない
- 女
- バスは海べりを走るのよね
山が海までせまっているから
トンネルがおおい
あっ あぶない
落石注意よ
- 男
- ぼくはこんな旅がすきだ
国道が二本にわかれている
バスのターミナル
バスをおりた前の道に
時計屋
雑貨屋
洋品店
なぜかおおきな写真屋
その隣に旅館
- 女
- 腰の曲がったおばあさんが
でてきて
住所と名前をかいてくださいな
- 男
- その住所をみてから
おばあさんは 必ず言うんだ
まあ!遠いところから
おいでなさった
冷たいリンゴジュースでも
- 女
- できたら宿代は前払いで
お願いします
- 男
- 年をとって
まかないが出来ませんから
食事はつくれません
すみませんねえ
- 女
- 七十才ぐらいのおばあさんは
わたしの知っている
どのおばあさんよりも
味がある
- 男
- そのおばあさんとも
もう二度と合うことがない
旅ってそうなんだよね
バスの隣にすわって
ずっと前からの
仲良しのようにおもえても
それは旅をしている
ぼくたちが
人恋しいからなんだ
- 女
- 次の日もまた
知らない町にむかって
- 男
- 知らない町だと思っているのは
わるいよね
一軒しか家がなくても
その家の息子は都会に出ていて
そう
息子が五人
娘が三人
娘の一人はモロッコの人と結婚していて
カナダにすんでいる
息子たちは東京や大阪にいる
- 女
- そうね
この町を私たちが知らないだけね
- 男
- この町はなんて読むんだろう
弁慶は平泉で
体中に槍をうけて死んだはずなのに
ほら
弁慶の刀かけ岩
あっ
弁慶岬もある
- 女
- 義経がアイヌの娘と恋をしたって
聞いたことがあるわ
ロマンチックねえ
じゃあ
この町へ二人でいつか
行きたいな
- 男
- すっつ(寿都)ちょう
風の町とかいてある
風の町なんて誰が考えたんだろう
ぼくたちの地図の旅
オホーツクからの北風のふくまえに