- 南の描いた「土手」の絵
- 南
- 「カンバスのちょうど2分の1、少しかたむいたラインで画面を横切るコンクリートの土手。
汚れ、ざらつき、ひびわれている。
太陽は真上。陰はどこにもない。」
- さつき
- あの土手のむこうはきっと海。
波がキラキラひかっているにちがいない。
先輩の絵はいつもカンバスのむこうの広がりを感じさせた。
- 雪と同時に降り出した雨
- さつき
- 走り込んだアーケードの下。雨やどりの人の肩越しに先輩の横顔がみえた。
(再び雷)思わず目を閉じた。
そして顔をあげた時、先輩と目が合った。
- 南
- 濡れなかった?
- さつき
- はい。先輩は?。
- 南
- ちよっと…間に合わなかった…
…梅雨があけるね。
- さつき
- 先輩は雷雨の空を描こうと思っていたのだろうか…
濡れた頭を軽く手で払って、にらむような目で空を見上げていた。
ただそれだけだったのに…
まるで劇画の1コマのようにまわりは黒くぬりつぶされ、先輩だけがまるい囲みの中にいた。
…梅雨があけるね…
つぶやきが私をつつんでいた。
- キャンパスの並木道
- さつき
- 両側を校舎にはさまれた並木道の中ほどに先輩をみつけた。
私は校舎の裏手にまわり、全速力で走った。
背中のりゅっくがゆさゆさおどる。
呼吸を整え、いかにも、自然に、ゆっくり校舎のかげから歩き出た。
- 南
- おう!
- さつき
- あっ、こんにちわ。
- 南
- これから?
- さつき
- はい。先輩は?
- 南
- 自主休講。
- さつき
- わぁ、いいなあ。
- 南
- どうしたの、すごい汗。
- さつき
- えっ…
- さつき
- まるで小さな子供をみるように先輩は私を見る。
ふきだす汗。
だのに先輩は涼しい顔。
いつだって涼しい顔?。
- キャンパス)
- さつき
- 図書館の入り口に先輩がいる。
そばに見え隠れするパステルブルーのシャツ。
あれがうわさの女性…
山桜のような人だって…
私はとっさに木立のかげに隠れていた。
- キャンパスの大芝生)
- さつき
- キャンパスの広い芝生。
風が吹くと銀色のモニュメントが揺れる。
シーソーのように上下に傾きながら回っていく。
先輩なら、この風景をどんな形でカンバスにうつすだろう。
- 南の描く「銀色のモニュメント」の絵)
- 南
- 「モニュメントはニューヨーク、マンハッタンのビルの上に置きたいなあ。
風が少し出てきたところ。
次の瞬間モニュメントはゆっくり動き始めるんだ。」
- さつき
- 先輩のそばによりそってパステルブルーの人。
顔も知らない人に胸が波立つ。
先輩はあのやさしい目であの人を見つめるのだ。
あの涼しい顔で笑うんだ…
…
そうよ、
これは片思い、
勝手な片思い。