- 女
- どうして 恋人どうしが
海を見るのに
どのカップルも
ものさしで 計ったように
あいだを空けて 座るのかしら
不思議だったけれど
やっぱり 私たちも
同じように あいだを空けている
須磨の海
波打ちぎわにそった 遊歩道
- 男
- 夜の空を見る
海を見ているのに
本当は 海を見ていない
いつも 海へ来るのに
海を見ている ぼくが
どんどん
気持ちが 海からはなれて
- 女
- そう そう
わたしも海を見ながら
熱帯魚売場で見た
エンゼルフィッシュが
一匹だけ 仲間から
外れて泳いでいた
いじめられて いるのか
一匹でいるほうが 好きなのか
どちらでもいいような ことばかり
連想ゲームを
一人でしているように
- 男
- この遊歩道にすわって
お互いの 顔ではなく
平行線に 海を見ながら
いろんなことを
思っているんだね。
- 女
- あなたは
わたしのことを 好きかしら
心の中で
いっぱい
尋ねているんだけれど
- 男
- スバルと
オリオンの星座しか
知らないのに
天文部に入った
夏なのに
山の上の
夜は寒くて
震えながら 流れ星を
いくつも 見たんだ
- 女
- 流れ星が
消えるまでに
なにか 願い事をした?
- 男
- アフリカに行きたい
- 女
- サハラの砂漠?
- 男
- どうしてわかった?
- 女
- ねえ
砂浜で 花火しない?
子供の時
線香花火を もたせてもらうと
うれしかった
線香花火の 最後の赤い玉が
ポトンと おちるまで
じっと みていると
悲しくないのに
なんだか 泣きたくなって
- 男
- 友達と 何年も前に
港の花火大会を
六甲山から みようって
空の 暗くなるのを
展望台で 待っていた
町のひかりの中
花火は
小さな ボールのかたちになり
港のあたりを
じっと目を こらさないと
見つけられないほど
山の上から見る花火
ぼくが 思っていたことと
まるで違っていた
いつも 空いっぱいに
もっと大きいと
思い込んでいたんだ
- 女
- 風が
波を抱いて
沖から吹いてくるわ
- 男
- 寒くない?
君の 長い髪の毛
今日は
波の においがする