- ぼく
- 今度あったら、今度こそ、と思っていた。
君を初めて見たあの日。
この冬一番の大雪、昼過ぎから降り出した雪は
またたく間に街を包んだ。
人通りの絶えた大通りで、
君はじっと空を見上げていた。
- ホキ
- 底は深い深い穴のようだった。
その底から次々落ちてくる雪。
見上げているとすいこまれていくみたい。
雪の降る日、
ホキの胸にも雪がつもります。
- ぼく
- だらしなく毎日を過ごしていた。
『付き合い悪いぞ』
何もかもが退屈で、
全てに意味をかんじられなかった。
- ホキ
- 冬の地の底をトンと蹴るの。
それが合図。
冬は春に変わっていくわ。
ホキはそのかすかな音を、
はっきり聞く事が出来ます。
それがホキの特技。
- ぼく
- じっとしていては何も変わらない。
スエットに着替え、部屋から走り出た。
外は静まりかえり、晴れた空には月が光っていた。
通りに沿って、左に左に折れながら走っていく。
途中木立に囲まれた小さな公園によった。
- ホキ
- あったかいミルクティーを両手でだいて
月夜の散歩に出ました。
アパートのそばの公園。
冷たくとがった空気。
ふふふ…
ホキと同じような人、見つけました。
鉄棒相手に腕立て伏せ。
1かーい 2かーい 3かーい …
- ぼく
- ふっきん 五十回、腕立て伏せ 三十回。
ストレッチをして、柔軟をして、
久しぶりの汗が心地いい。
ぼくは最初からわかっていた。
君はぶらんこでゆれながら、
ずっとぼくをみていた。
- ホキ
- 空も木も公園も砂場も みんな群青色。
静かだったわ。
まるで海の中で波にゆられているみたい。
ホキは考えていました。
「お月さま、きれい」
「君はいつも見上げているんだね」
「水の中にいるみたい」
「どうしてそんなにまっすぐな、まなざしなんだろう」
「魚になるのよ」
「りんとしている」
「あなたは… 砂にもぐりこんでいる魚。
目だけキョロキョロ動いている。」
「君だけをみているんだ。」
「ううん。ここは光の届かない海の底。
もう何も見えないわ。耳をすませて!ほら…」
本当の恋ってどんな恋でしょうか。
- ぼく
- 雨のにおいがする。今夜はやけにあたたかい。
あと五回、あと十回…。
腕立て伏せはもう八十回をこえた。
ぼくは何をまっていたのだろう。
雨がふりはじめた公園には誰もいない。
- ホキ
- 今夜は雨。
電車の音が近くに聞こえる。
こんな夜は
好きな言葉を一つずつとりだしてみる。
…予感、期待…明日…
腕立て伏せの君も今夜はきっとお休み。
雨の音を聞きながらねむれるわ。
- ぼく
- 雨はあがったらしい。
窓を開けるとほんのりあたたかい風。
息をするたびに細胞が一つずつ目覚めていった。
スエットパンツのうえはTシャツ一枚。
公園が近づくとトンと心臓がうちはじめた。
- ホキ
- ホキはとっても元気です。
なんだかとってもうれしいのです。
水たまりには青い空が写っているし、
雪やなぎは黄緑だし、太陽は明るいし…
- ぼく
- 今日こそ、声をかけよう。
- ホキ
- きっと、あいさつするわ。
- ぼく
- こんにちわ!
- ホキ
- こんにちわ!