第186話(99/10/22 ON AIR) | ||
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『夫婦列車』 | 作:魔人ハンターミツルギ |
インターホンがなっている。 男の声でナレーション |
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男 | 『今、考えるとこのインターホンの音が発車ベルだった。』 まだ、インターホンが鳴り続けている。 |
男 | 「はい。」 |
ドアの向こうには、ほがらかな感じの女が立っている。 | |
女 | 「あのー、お願いがあるんですがー。聞いていただけますか?」 |
男 | 「ええ、まあ、はい」 |
女 | 「私と死んでほしいんです。」 |
男 | 「えっ?いや…はい?」 |
女 | 「だめですか…独りで死んでいくのが、寂しかったものでつい… すいませんでした。」 |
男 | 「ちょっと待ってください!…あのー、いいですよ。」 |
女 | 「いいんですかー。私と一緒に死んでくれるんですかー。」 |
男 | 「…はい。」 |
列車のガタンゴトンという音 | |
男 | 「あのー、いつ死にましょう?」 |
女 | 「明日にしましょう。」 |
男 | 「はい。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「あのー、いつ死にましょう?」 |
女 | 「私、一度結婚したかったんです。結婚しませんか?」 |
男 | 「ええ、いいですけど。」 |
女 | 「その後で死ぬことにしましょう。」 |
男 | 「…はい。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「あのー、いつ死ぬんですか?」 |
女 | 「せめて新婚旅行から帰ってからにしましょう。」 |
男 | 「…はい。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「いつ死にます?」 |
女 | 「私、子供、生んでみたかったんです。生んでからで、いいですか?」 |
男 | 「ええ、いいですよ。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「あのー、いつ死にましょうか?」 |
女 | 「まだ、この子はしゃべることも、歩くこともできないんですよ。 残して死ぬことができるもんですか。この子がちゃんといきていける ようになってからにしましょう。」 |
男 | 「はい。」 |
ガタンゴトン | |
男「そろそろ死にますか?」 | |
女 | 「何言ってるんです!娘の入学式に言う言葉じゃないでしょう。」 |
男 | 「はい。そうだけど…。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「ねえ、そろそろ」 |
女 | 「見てください。セーラー服。とっても似合うでしょう。」 |
男 | 「ええ…あのー死ぬのやめたんですか?」 |
女 | 「いいえ、死にますよ。そういう約束ですから。」 |
男 | 「ああ、そうですよねー。」 |
女 | 「せめてこの子が卒業するのを待ちましょう。」 |
男 | 「はい。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「ねえ、こういう場所で言うのもなんなんですが」 |
女 | 「じゃあ、やめてください。」 |
男 | 「はい。」 |
女 | 「見てください。あの子の晴れ姿。ウエディングドレスにして良かったわー。」 |
男 | 「ええ。」 |
女 | 「もうすぐですよ。」 |
男 | 「はい。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「死にましょうか?」 |
女 | 「ついでだから、孫の顔まで見ませんか?」 |
男 | 「はい。」 |
ガタンゴトン | |
男 | 「ねえ、そろそろ死んでもいいんじゃないですか?」 |
女 | 「まだ、ですよ。この子がかわいくないんですか?」 |
男 | 「そんなことないですけど。」 |
女 | 「変なおじいちゃんでしゅねー。もうちょっと遊んでくれても、いいのに ねー。」 |
男 | 「はい。そうします。」 |
ガタンゴトン | |
女 | 「ゴホン、ゴホン、まだダメですよ。」 |
男 | 「もう、いいじゃないですか。」 |
女 | 「私が死んでからですよ。」 |
男 | 「一緒に死のうって言ったじゃないですか!」 |
二人、咳き込む。 男のナレーション |
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男 | 『もうすぐ私たちの終点に着くようです。』 |
咳き込み続ける。 そこに列車が静かに停まるキーッという音が重なる。 |
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END |