第181話(99/09/17 ON AIR)
『かぶの話』 作:腹筋 善之介




日に焼けた女性が備前焼の厚手のお椀に、少しとろみのあり
そうな汁を入れて、美味しそうにすすっている。
秋の美しい夜空を見ながら。秋の虫が、ころころと鳴いている。
ふーっ、ふーーー。ああ、美味しい。ふっーーーーっ。
土生姜を入れると、体が温まるのよねーっ。えっ?私?
なぜそんなもの食べてるかって?フフフフフ!
それを説明するには、1年前、いえいえ、20数年前の話を
しなければいけないワ。
あれは、今からちょうど1年前の話。ええ!そうよ。
ちょうど私が会社を辞め頃よ。
ええ、本当にバリバリ働いていたわね。1分1秒の株の変動を
気にしながら、買いダ!売りダ!、って毎日が株のことで頭が
いっぱいだったわ。バリバリの証券ウーマンだったわね。
そして、もっともっと効率よく儲けることが出来ないかなーなんて
考えるようになったわ。
ええ、そりゃ会社で儲けるよりも、家に居ながら利益を上げた
方がいいじゃない。
でもねー。なかなか会社って辞められないのよね。人間関係が 
あるし。それで、どうしようかなって、真剣に考えていたのよ。
でも、真剣に考えれば考えるほど、解らなくなってくるのよね。
私は、いったい何がしたいんだって。大儲けしたいのかしら?
ー山当てて、みんなから羨望の眼差しでみられたいのかしら?
株主になりたいのかしら?とか。そして、解らなくなって、眠くなっ
てうとうとしたの。
これは、1年前の話よ。株のことばっかり考えていた私が、
急に会社辞めて、どうして今のようになったかの、きっかけの話。
でも、今から20数年前の話になるから気を付けて。
そうそう、うとうとしてると、もうずうっーと忘れていたことを、
思い出したの。
私が、3歳か4歳の頃のこと。私のお父さん、そのころは、
パパって呼んでたわ。パパが、毎晩寝るときに、大きなかぶの
話をしてくれていたの。知ってるでしょ、かぶを、おじいさんが
引っ張る話。
ええ、そう!証券の株のこと考えてたから、かぶが重なって
思い出したんでしょうね。とにかく、大きな株の話をしてくれたの。
毎晩。何百話も。その何百話って言うのも、すべて話が違うの。
大きなかぶの話で。フフ。かぶを引っ張る人が、毎日違うの。
毎日毎日変わるのよ。
えっ?いいわよ。
最初は、いつもこう始まるの。
パパ 今日も、おじいさんは、かぶを採りに行くことにしました。
「今日は、どんなかぶが採れるかのうー」そう言うと、
おじいさんは、畑に入っていきました。
ガサガサガサッ。「今日はこのかぶを採ることにしよう。」
そう言うとおじいさんは、かぶを引っ張りはじめました。
「うんこらしょっ、どっこいしょっ!」しかし、びくともしません。
ここまでは、童話と大体同じでしょ。でもこの後、おばあさんと
娘を同時に呼ぶの。でも、かぶがびくともしなくて、次は、
なぜか二人のお相撲さんがやってくるの。
パパ するといつものように、二人のお相撲さんがやってきました
。「今日も、手伝うドスコイ!」「任してください、ドスコイコイ
コイハッ…!」そこでみんなは、かぶを引っ張りはじめました。
(おじいさん)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(おばあさん)
「ウンコラショ、ドッコイショ」、(娘)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、
(お相撲さん1)「ウンコラ、ドスコイドスコイ!」、「ウンコラ、
ドスコイコイコイコイハッー!」
もちろん、まだまだかぶは、地面から抜けないの。そこで、
いつもここで登場するのが、空を飛ぶゾウのダンボと、
そのお母さんのジャンポなの。その、ダンボの背中には、
いつも私と、妹が乗ってて、おじいさんに空から挨拶するの。
パパ 元気よく挨拶しました。「おじいさん、こんにちわ!」
そしてみんなは、かぶを引っ張りはじめました。
(おじいさん)「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(おばあさん)
「ウンコラショッ、ドッコイショ」、(娘)「ウンコラショッ、ドッコイ
ショ」、(お相撲さん1)「ウンコラ、ドスコイドスコイ!」、「ウンコラ、
ドスコイコイコイコイハッー!」ジャンボが、「パオーーンッ!」、
空にはダンボが「バッサァッ、バッサァッ!」、その背中から、
「がんばってーっ」
もちろん、かぶはまだまだ抜けないわ。
もっとたくさんの人や動物が手伝いに来てくれるの。
サイとか、キリンとか、ワニとか、実家で飼っていた猫とか、
犬とか、ウルトラマンとか、赤影とか、ネズミのガンバと
その仲間とか、汽車のトーマスとか。
とにかく、いっぱい、毎晩いろんな人が、動物が、おじいさんを
手伝いに来るの。そうそう、親戚が飼っていたサンディーと言う
鳥もレギュラーだったけど、死んでからぱったりと出てこなかっ
たっけっ。とにかく、そんな昔の、パパの話を思い出したの。

えっ?あら、いいところに気がついたわね。そうなの。
最後に、必ずかぶは抜けるのよっ。そして、とっても大きいから、
おじいさんがみんなに取り分けてくれるの。
話に出てくる小さな私も、かぶをもらって、家に帰るの。すると、
いつもママが、そのかぶを料理してくれるの。なんでも、昆布と、
鰹でだしを取って、かぶを入れ、お酒や、しょうゆ、みりんなどで
薄い味付けをするの。
ママが。最後に、少しトロミを出すために、片栗粉を入れるの。
土生姜を入れて、家族みんなで食べてこの話はおしまい。
長い話でしょ。ここまで聞くと、たいがい眠くなって、寝ていたわ。

ええ、そんなわけで私は今、その料理を食べているの。
もちろん、一年前から はじめた自作農園でつくって自分で抜いた、
かぶを使ってね。本当に美味しいの。
会社を辞めて、株取引から足を洗って、農園をはじめたのは、
これを食べるため。なんだか、やっとパパがわかったような
気がするわ。ねえ、食べる?とっても、暖まるわよ。 
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