第172話(99/07/16 ON AIR) | ||
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『夜が明ける』 | 作:深津 篤史 |
夜行汽船のデッキ波の音。 一昔前のサザンのメロディー |
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男 | 江ノ島て見たことないなあ |
男、サザンを口ずさむ。女が現れ | |
女 | 何してんの |
男 | 何て自分は |
女 | いや、なつかしなあ思て |
男 | そう? |
女 | 幾つ? |
男 | 31 |
女 | 一人? |
男 | ああ、うん自分は |
女 | 一人 |
男 | へえ |
女 | うれしい? |
男 | うん、うん |
女 | なつかしわあ、ほんま |
男 | この曲? |
女 | いやそやなくって |
男 | 何 |
女 | 今時、なつかし。アミのはり方してはるわあ思て |
男 | え、ほんま |
女 | そんな手じゃ、今時の子はよってもきいへんで |
男 | いやそういう訳やないねんけどな |
女 | じゃ何 |
男 | いや。そういう訳やねん。 |
女、少し笑った。 | |
男 | 一人も淋しいなあ思て。 |
女 | けどひっかかるうちもうちやなあ。 |
男 | ひっかかってんの? |
女 | さみしいし |
男 | あっためたげよか |
女 | いらんわ、暑いし |
男 | そらそやな |
女 | なあ |
男 | 何 |
女 | ここで口説いてからどうすんの |
男 | どうもなあ |
どうもって何よ | |
男 | 俺、法律やねん |
女、笑い出した | |
男 | そない、笑いなや |
女 | 法律て、いつ |
男 | 明日、あ、もう今日か |
女 | うん(笑っている) |
男 | 港ついたら始発のらんならん |
女 | そらせつないなあ |
男 | エエ雰囲気なっても船の上じゃどもならんし |
女 | 私一等やけど |
男 | え |
女 | 二等なんやろ |
男 | うん、ザコ寝もうっとおしいし |
女 | うちも、うっとおしいな思て一等にしたんやけど |
男 | うん |
女 | みしなってな。夜行はあかん。ムードありすぎ |
男 | ムード? |
女 | さみしいぞお、切ないぞお、遠くへ遠くへ運ばれて いくねんぞおって |
男、少し笑う | |
女 | 気いついたら鼻歌でドナドナうとててなあほらし なって表出てきてん |
男 | そいねしたろか |
女 | ・・・ |
男 | 子守歌にドナドナうとたるわ、フルコーラス |
女 | 一緒にくる? |
男 | 期待してええの |
女 | せんといて |
やや間 | |
男 | 俺のおっちゃん、ガンで死んでな。去年の今頃 |
女 | それで |
男 | 病院の前にユリがいっぱい咲いとってなあ |
女 | うん |
男 | 縁起悪いやんけ。まだ生きとるもんいっぱいおるの に。死ぬて決まってるみたいやんけ。腹立ったけど。 |
女 | うん |
男 | おっちゃんがな、あれの根っ子はくえるねんぞいう て、窓から指さしてな食えんやつもあるけど、あれ は食えるやつやから |
女 | うん |
男 | 来月、お前見舞いきた時、掘ってもって帰れいうて な |
女 | ・・・ |
男 | あかん、何話してんねん。口説いてたはずやのに |
女 | あほやな |
男 | 夜行の船はムードありすぎ |
女 | うちな。 |
男 | 何 |
女 | うちは里帰り |
男 | うん |
女 | もう寄らへん。 |
男 | え |
女 | 10年大阪におったけど田舎否か帰ることにした |
男 | うん |
女 | 行きしもな、船できてん。昼間のやつやったわ、 ウォークマンでサザンききもって |
男 | 二人で |
女 | 何 |
男 | しんみり泣いてよか |
女 | かっこ悪いなあ |
(幕) |