第172話(99/07/16 ON AIR)
『夜が明ける』 作:深津 篤史




夜行汽船のデッキ波の音。
一昔前のサザンのメロディー
江ノ島て見たことないなあ
男、サザンを口ずさむ。女が現れ
何してんの
何て自分は
いや、なつかしなあ思て
そう?
幾つ?
31
一人?
ああ、うん自分は
一人
へえ
うれしい?
うん、うん
なつかしわあ、ほんま
この曲?
いやそやなくって
今時、なつかし。アミのはり方してはるわあ思て
え、ほんま
そんな手じゃ、今時の子はよってもきいへんで
いやそういう訳やないねんけどな
じゃ何
いや。そういう訳やねん。
女、少し笑った。
一人も淋しいなあ思て。
けどひっかかるうちもうちやなあ。
ひっかかってんの?
さみしいし
あっためたげよか
いらんわ、暑いし
そらそやな
なあ
ここで口説いてからどうすんの
どうもなあ
どうもって何よ
俺、法律やねん
女、笑い出した
そない、笑いなや
法律て、いつ
明日、あ、もう今日か
うん(笑っている)
港ついたら始発のらんならん
そらせつないなあ
エエ雰囲気なっても船の上じゃどもならんし
私一等やけど
二等なんやろ
うん、ザコ寝もうっとおしいし
うちも、うっとおしいな思て一等にしたんやけど
うん
みしなってな。夜行はあかん。ムードありすぎ
ムード?
さみしいぞお、切ないぞお、遠くへ遠くへ運ばれて
いくねんぞおって
男、少し笑う
気いついたら鼻歌でドナドナうとててなあほらし
なって表出てきてん
そいねしたろか
・・・
子守歌にドナドナうとたるわ、フルコーラス
一緒にくる?
期待してええの
せんといて
やや間
俺のおっちゃん、ガンで死んでな。去年の今頃
それで
病院の前にユリがいっぱい咲いとってなあ
うん
縁起悪いやんけ。まだ生きとるもんいっぱいおるの
に。死ぬて決まってるみたいやんけ。腹立ったけど。
うん
おっちゃんがな、あれの根っ子はくえるねんぞいう
て、窓から指さしてな食えんやつもあるけど、あれ
は食えるやつやから
うん
来月、お前見舞いきた時、掘ってもって帰れいうて
・・・
あかん、何話してんねん。口説いてたはずやのに
あほやな
夜行の船はムードありすぎ
うちな。
うちは里帰り
うん
もう寄らへん。
10年大阪におったけど田舎否か帰ることにした
うん
行きしもな、船できてん。昼間のやつやったわ、
ウォークマンでサザンききもって
二人で
しんみり泣いてよか
かっこ悪いなあ
(幕)