第169話(99/06/25 ON AIR) | ||
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『真夜中の恐怖』 | 作:四夜原 茂 |
真夜中のホテルの一室である。 | |
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女 | ねぇ…。ねぇったら……。 |
男 | ん? |
女 | 起きてちょうだい。 |
男 | なに? |
女 | 音がするのよ。 |
男 | どんな音? |
女 | 誰かいるんじゃないかな、そこに。 |
男 | ……まさか。 |
女 | でもさっきからずっとカサカサ音がするのよ。 |
間 | |
男 | 何も聞こえないよ。 |
女 | さっきまでは聞こえてたのよ。 |
男 | ふうん。電気つけてみようか?スイッチはどこだったかな。 |
女 | …やめて。 |
男 | え? |
女 | お願い。あたし化粧落としちゃってるのよ。 |
男 | ああ…じゃあシーツを頭からかぶってたらいいよ。 |
女 | …わかったわ。ちょっと待って…(きぬずれの音) …いいわよ(こもった声)。 |
男 | でスイッチはどこだったかな…。 |
女 | ちょっとぉ!どこ行くの。(こもった声) |
男 | どこって、部屋の電灯のスイッチは、たしか、入り口の扉の とこだったろ? |
女 | ひとりにしないでちょうだい。 |
男 | ……ええ? |
女 | なんか私、胸さわぎがするのよ。何か恐ろしい事が起こるん じゃないかって…。 |
男 | ふふ。何も起こりゃしないよ。 |
女 | …なに? |
男 | え? |
女 | ほら、これ、何の音? |
お菓子が入っているふくろがカサカサガザガザ音を出し ているようだ。 |
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男 | なんだ…?あっちにはたしかテーブルがあったよな。テーブ ルの上には…。 |
女 | 飲みのこしたカンビールが2本と…。 |
男 | ピーナツが入ったふくろ? |
女 | な、なにか居るのよ。そこに。 |
男 | とにかく電気をつけてみよう。 |
女 | つれてって、私も。 |
男 | ああ。 |
カサカサ、カサカサ。 その時、いきなり「ガン」と重いものをヒザでけり上げ てしまう音。 |
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男 | あう! |
女 | ど、どうしたの?! |
男 | ……あ、あ、あ、いててて…。何だこりゃ。スーツケースが こんな所に…。 |
女 | スタスタ歩いちゃあぶないわよ。這って行きましょう。 |
男 | あ、ああ、そうしよう。れ。これ…これは何だ? |
女 | なに? |
男 | 小さな布きれみたいなものが…。 |
女 | 布きれ?……あ、これ、あたしのだわ。 |
男 | ナミエの? |
女 | そう。あなたが投げたのよ。ポイッて。ふふふ。 |
男 | あ、そうだっけ? |
女 | 前と後ろがよくわからないけど…まあ、いいか。よいしょっと…。 |
パチンとゴムが体に当たる音。 | |
男 | すると、オレのも、このあたりに落ちてくるんじゃないかな。 |
女 | あ、これじゃない? |
男 | ……これ?似てるけどちょっとちがうんじゃないかな。 なんか小さすぎるような…。 |
間。パチンとゴムの音。 | |
女 | あれ? |
男 | 下腹部がしめつけられて苦しいよ。 |
女 | うふふふ…。 |
男 | ふふふ、ははは。 |
女 | 逆だったみたいね。 |
男 | ま、いいか。 |
女 | ま、いいわよ。 |
カサカサと音がする。と、あらぬ方から、もうひとつの音が 重なる。コンビニの白いビニール袋の中で何かがガサガサや りはじめる。 |
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女 | ちょっ、ちょっと。どうなってるの。あっちにも何か居るんじゃ ないの? |
男 | ええと…。 |
女 | 何やってるの?早く電気をつけましょうよ。 |
男 | どっちだったかな? |
女 | どっちって? |
男 | だからドアはどっちだったっけ? |
女 | ………………私達、迷っちゃってるわけ? |
男 | だって、今、手さぐりでいろいろやってる間にぐるぐる回っちゃ っただろ?だから。 |
女 | とにかく、まっすぐ行ってみましょうよ。壁にたどりついたら、 壁をつたって、ドアまで行けるわよ。 |
男 | まっすぐって、どっちがまっすぐなの? |
女 | どっちでもいいから進むのよ。 |
男 | わかったよ。 |
間。床をはうような音。 | |
男 | あ。柱みたいなものが。 |
女 | 柱?そんなものはなかったわよ。 |
男 | でも、ほら。床から円柱の柱がこうずっと上まで |
男、ガンと後頭部を打ちつける。 | |
男 | ててて。 |
女 | だいじょうぶ? |
男 | な、なんなんだこれは? |
男がまさぐってるうちにカンビールをたおしてしまう音。 | |
女 | なに、今の。カンビールがたおれたの? |
男 | うん。テーブルの所に来ちゃってるんだよ、オレ達。 |
ガサガサガサと大きな音がする。 二人、とにかくその場をはなれようと、バタバタする。 |
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女 | はーはーはー(息づかい) |
男 | はーはーはー(息づかい) |
女 | (つばをのみ込み)な、なんでよりによって、テーブルの方に 行っちゃうわけ? |
男 | 知らないよ、そんな事言われたって。 |
女 | で、ここ、ここはどこなの? |
男 | ええとね…あ、ドアがあるよ。ほら。 |
女 | ……ほんとだ。 |
男 | ドアの左側にスイッチが…あったあった。ありました。じゃ、 電気を…。 |
女 | 待って! |
男 | え? |
女 | どうしよう。シーツ持ってくるの忘れちゃった。 |
男 | はー?どうでもいいじゃないか、そんなもの。 |
女 | どうでもよくないわよ、素面なのよ私。 |
男 | ……素面だと…すごいの? |
女 | かなり。 |
ガザゴゾガザゴゾと音がする。 | |
男 | どっちが怖いかな。今、電気をつけるのと、またベッドまで もどってシーツをとってくるのと。 |
女 | いい勝負だと思う。 |
男 | …ドアを開けて逃げるってのはどうだろう? |
女 | このかっこうで? |
男 | ……。 |
女 | 電気にしましょう。 |
男 | え? |
女 | こうなったらもう、どうでもいいわ。やぶれかぶれよ。 |
男 | いいのか? |
女 | いのよ、もう。いくら秘密にしようと思っても、いづれば れちゃうんだし。さ、スイッチ押して。 |
男 | そんな…。 |
女 | いいから、押すのよ。 |
男 | わ、わかった。押すよ。 |
間。スイッチをペチと押す。 換気扇か、エアコンがゆっくりと動き出す。 |
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おわり |