第155話(99/03/19 ON AIR) | ||
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『目であなたと話をしよう』 | 作:冬乃 モミジ |
僕 | 僕は君に、僕の笑っている顔を見せたいと思う。 けれど、僕の顔は白いマスクに覆われて、 君には僕の目しか見えない。 |
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君 | あなた |
僕 | 「私も同じよ」とでも言いたげな目をする。 白いベッドに横たわり、少しこちらへ頭を かしげた君の口には、呼吸をする為の管が 入っている。 「ね、おんなじよ」 と、君の声がきこえそうな気がする。 今、君には僕に笑いかけるだけの力もない。 声さえ出せない。 だから、君の代わりに話をしよう。 バカバカしい、たわいもない、罪のない話を 次から次へと君に話す 天気のこと、近所のこと、ついこの間の僕の 誕生日の話。 1回1時間、日に3度、君に会える この3時間を、僕は殆んど話しつづける。 君の手が時折、あいづちをうつように 僕の手を握り返す。 |
君 | あなた |
僕 | 君が目を覚ましていようと、ねむっていようと、 僕は君の手を握り、話をする。 今まで、手をつないで歩くこともなかった僕らだ。 今まで君の無邪気な話をいいかげんに きくばかりだった僕がだ。 出来れば、一晩でも、二晩でも、こうしていたい と思うのだ。 |
君 | あなた |
僕 | 抵抗力がなくなった君の為に用意された手袋とマスク をつけて病室に入る。 君を守る為のうすい手袋が、君に直接ふれることを 許さない。 僕は君に 僕の笑っている顔を見せたいと思うけれど、 君を守る為の白いマスクがそれを許さない。 |
君 | あなた |
僕 | 僕らが直接語りあえるのは、目、だけかもしれない。 手を握り、話しかけるよりも雄弁に 目は伝えあう。 |
君 | あなた |
僕 | どんなに愉快な話をしても、 君は僕の不安な目をすぐに見抜いてしまう。 |
君 | あなた |
僕 | 僕はいつも反省をして、そしてまた君の目と むきあうのだ。 |
そうだ、君が退院する日のことを考えよう。 話が出来るようになれば、君は、その日にどんな服が 着たいか、教えてくれるだろう。 化粧道具も持ってこよう。 僕がわからないことは、看護婦さんにきけばいい。 君と、そんな風に話が出来る日を僕は信じて疑わない。 |
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君 | あなた |
僕 | それまで 沢山、言葉で話しかけ 手を握り、君も僕の手を握り返す そして、もっと君に力を与えるために |
君 | あなた 笑って |
僕 | 僕らは、目で話をしよう |