第147話(99/01/22 ON AIR) | ||
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『フリマでフィーバー!デンデケデン GO!GO!アジンララ』 |
作:飛鳥 たまき |
(新春、フリーマーケット。広い会場の東の端。 女の子が一人店を出している。 遠くのにぎわいが聞こえてくる。 女の子、ぶつぶつと売り口上) |
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女の子 | 「……真っ白い石はいかがですか……まあるい、まあるい 石だよ……一つ百円ですよ……青い瓶はいかがですか ………地中海の色をした瓶はいかがですか…」 |
(女の子、瓶に息をふきかけ、キュッキュッと瓶を磨く) |
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SE | ボワ~~~ン |
男 | (ほこり臭いにおいがして瓶から煙のようなものがでる) |
魔法使い | 「ごほっ、ごほっ(むせて)……お、おめでとう…ごほっ、 |
女の子 | 「…?…」 |
魔法使い | 「失礼いたしました…エーと…今日は……うん、松の内は |
女の子 | 「…おめでとう…」 |
魔法使い | (女の子、気にもとめず、売り場の整理をつづける) |
女の子 | 「…(咳払いをして)ご用は何でございましょうか」 |
魔法使い | 「(ぶつぶつと)『キャンディ・キャンディ』の着せ替え もあるよー…ここしかないよ…」 |
女の子 | (魔法使い、女の子の周りをうろうろして) |
魔法使い | 「…何をなさっておいででございますか…」 |
女の子 | 「フリーマーケット。初売り」 |
魔法使い | 「フリーマーケット」 |
女の子 | 「そう」 |
魔法使い | 「はっはー、ガラクタ市でございますか」 |
女の子 | 「宝物市」 |
魔法使い | 「宝物?……私の住まい、コバルトブルーの瓶を宝物といっ |
女の子 | 「住まいって…この瓶?ゴミ置き場にあった……」 |
魔法使い | 「人生いろいろでございますです」 |
女の子 | 「あなた、誰?」 |
魔法使い | 「あっ、失礼いたしました。私はそのコバルトブルーの瓶 に住んでいるもので、名前はスユオアジチ・ピ・オサシ・ ミセセコマナココ………アジンララと申します。キュッ キュッと瓶をこすってお呼び下さい。いつでもとび出し てご主人さまのお手伝いをさせていただきますです。… …で、ご主人さまのお名前は…」 |
女の子 | 「ゆう子」 |
アジンララ | 「ゆう子さまがこのお店のオーナー…」 |
ゆう子 | 「オーナーって…まあ、そう」 |
アジンララ | 「…色紙、押し花…カバン……子供の服…お菓子の缶に、 小石に…そろばん?」 |
ゆう子 | 「蝉のぬけがらでしょ、へびのぬけがらでしょ…」 |
アジンララ | 「宝物でございますかー」 |
ゆう子 | 「この石、かわいいでしょ、潮岬にいったときひらったの。 太平洋の荒波にもまれてこんなにまるくなったの」 |
アジンララ | 「一個、百円…」 |
ゆう子 | 「お値打ちよ」 |
アジンララ | 「これは?」 |
ゆう子 | 「ああ、これ。たばこの吸い口」 |
アジンララ | 「シイガレット…吸ったあとの…」 |
ゆう子 | 「ダンボールにあと二箱あるの。集めてたの、小さいころ」 |
アジンララ | 「小さいころ?ゆう子さまが?」 |
ゆう子 | 「…整理することにしたの、全部。…おもちゃも、色紙も きれいな箱も…」 |
アジンララ | 「宝物でございましたのに?」 |
ゆう子 | 「過去は捨てるの、全部。ぜーんぶ…あしたに向かってい くの。…いけない?」 |
アジンララ | 「…ぜんぶ……わかりましたでございます。アジンララ、 精一杯お手伝い申し上げますです。」 |
ゆう子 | (ゆう子、ごそごそと商品を並べる) |
アジンララ | 「…えーと、まずでございます。このシイガレット…小分 けして……『ポプリ デュ シイガレツト』でございま す。買ってくださいましたお客様にプレゼントというの はいかがでございましょう」 |
ゆう子 | 「えっ?一年くらいかかったのよ、これだけ集めるの」 |
アジンララ | 「ウホン…ゆう子さま、そこでございます。商売は思い切 りが肝心でございます。需要と供給の関係っていうもの でございまして…」 |
ゆう子 | 「………」 |
アジンララ | 「で、この石…十個まとめて百円が妥当かと…」 |
ゆう子 | 「ええっ、こんなにまるくて、すべすべなのに?…いやよ、 あなた…」 |
アジンララ | 「アジンララ」 |
ゆう子 | 「アジンララ、こんなかわいい石見たことある?」 |
アジンララ | 「…過去は捨てるのでございましたね。明日に向かってい くのでございますよね、ゆう子さま。十個百円でしたら、 子供たち喜んで買いますです…」 |
ゆう子 | 「子供?って…(辺りを見渡して)…ふう…お客さん、こ んなはしっこまでなかなか来ないよね…」 |
アジンララ | 「…ゆう子さま!アジンララひらめきましたでございます。 そこのピアノ、音は出ますでしょうか…」 |
ゆう子 | 「もちろんよ」 |
アジンララ | (ゆう子、おもちゃのピアノで「エリーゼのために」を弾い てみせる) |
ゆう子 | 「おう!ゆう子さま!すばらしい(拍手)。ベートーベン ではございませんか……ライブ演奏いたしましょう」 |
アジンララ | 「ライブ?ピアノ?」 |
ゆう子 | 「ええ、ええ、ええ…ピアノに笛に…このお菓子の缶…ゆ う子さまと私でセッションございます…いけますです。 さあ、どうぞ、ゆう子さま、ピアノを」 |
アジンララ | (ゆう子ピアノを弾く。アジンララ、缶や箱をたたいてセッ ション。笛もときどき。音の出るものは全て) |
ゆう子 | 「(演奏にのって)さあ、さあ、いらしゃい、いらしゃい、 宝の山だよ、掘り出し物いっぱい、懐かしいもの珍しい もの、ないものない…」 |
アジンララ | 「(即興の詩をピアノにのせて歌う) 『 』」 |
ゆう子 | 「その調子でございますです」 (ゆう子の歌に合いの手をいれて) 『 』」 |
アジンララ | (人がぽつ、ぽつ集まってくる。アジンララ、箱をたたき ながら) |
ゆう子 | 「はい、いらっしゃい。この石でございますね。はい、耳 にあててお楽しみください。太平洋の波の音がきこえま すです。ありがとうございますです。……」 |
アジンララ | 「…アジンララ……おまけ…」 |
ゆう子 | 「ああ、お客さまー、『ポプリ デュ シイガレツト』 お楽しみくださいませ」 |
アジンララ | (ゆう子、別の客に) |
ゆう子 | 「いい色でしょ。じっとみてると海の中にいるみたいな 気持ちになりますよ……五百円です…ありがとう」 |
アジンララ | 「あっ…ああああ……ゆう子さま」 |
ゆう子 | (音楽止まる) |
アジンララ | 「……(アジンララ語で泣きながら)私の住まい……」 |
ゆう子 | 「……アジンララってアジンララ語で泣くんだ……泣き 声や笑い声はみんな同じって思ってたー……」 |
アジンララ | 「…私の…千五百年も親しんできましたです……深い深 い海の底で眠っているような、優しく波に揺られてい るような…好きな住まいでしたのに……」 |
(アジンララ、悲しそうに鼻をすすっている) | |
ゆう子 | 「ごめん…アジンララ。もう、泣かないで。……えーと …たしか…あった!ほら、この瓶、おいしいブルゴー ニュワインが入っていったの。きれいなグリーンでしょ。 森の色よ。ほら、春になって、木が芽吹くでしょ。そ の芽吹いた緑色。見て見て、こうしてお日様にかざす と…ね、森の中にいるみたいでしょ」 |
アジンララ | 「…ほんとうでございますです…森の色でございます… 春の森、いいかもしれません…ゆう子さまの歌を聞き ながら、ブルゴーニュの風に吹かれながら、眠ります です…」 |
ゆう子 | 「あげる。私の宝物の瓶、アジンララにあげる」 |
アジンララ | 「はい、ゆう子さま。アジンララも新しい明日に向かっ ていくことにしますでございます。今日から緑色の瓶 を住まいにいたしますです」 |
(ゆう子、ピアノを弾く。アジンララピアノにリズムで セッション。 アジンララ「いらしゃい、いらしゃい」 ゆう子「いいものたくさんあるよ」 と客を呼ぶ) フリーマーケットのにぎわい大きくなる) |