第146話(99/01/15 ON AIR) | ||
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『冬の屋上』 | 作:松田 正隆 |
―ある高校の屋上。 | |
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女 | 「何で途中でやめるのよ」 |
男 | 「…」 |
女 | 「ねぇ」 |
男 | 「何だかシラけちゃった。」 |
女 | 「何で…」 |
男 | 「…聞くなよ、いちいち。」 |
女 | 「…。」 |
男 | 「帰ろう」 |
女 | 「…イヤ」 |
男 | 「じゃ、オレ帰るから」 |
女 | 「待ってよ」 |
男 | 「…。」 |
女 | 「何でよ。呼び出したのそっちでしょ」 |
男 | 「…ごめん」 |
女 | 「あやまればいいってもんじゃないわよ」 |
男 | 「…会いたくなって、会ったら別にどうでもよくなって」 |
女 | 「よくまあ、そんなこと言えるわね」 |
男 | 「自分でもびっくりするぐらいだよ」 |
女 | 「勝手すぎるわよ」 |
男 | 「どうせ何にもしてなかったんだろ」 |
女 | 「してたわよ。」 |
男 | 「何を」 |
女 | 「本読んでた」 |
男 | 「いいよ、そのぐらい」 |
女 | 「よくない。いいとこだったんだから」 |
男 | 「また、読めばいいじゃないか。」 |
女 | 「興奮さめちゃったわよ」 |
男 | 「興奮するようなヤツ読んでたの」 |
女 | 「…違うわよ、そんなんじゃ」 |
男 | 「何読んでたの」 |
女 | 「何だっていじゃない」 |
男 | 「帰ろう」 |
女 | 「いやだって」 |
男 | 「帰って続き読めよ」 |
女 | 「それが勝手だって言ってるの」 |
男 | 「寒いよ、ここ」 |
女 | 「屋上行こって言ったのもそっちよ」 |
男 | 「他に行くとこないだろ」 |
女 | 「あるわよ…」 |
男 | 「…」 |
女 | 「キッサ店とか、公園とか、…」 |
男 | 「あきた、もう」 |
女 | 「…じゃ、電話しなきゃいいでしょう。全く、ハラタツな…」 |
男 | 「ああーあ、始まるな、学校…」 |
女 | 「…始まるわよ、そりゃ」 |
男 | 「爆弾でぶっとばそうか、学校」 |
女 | 「爆弾ないもん」 |
男 | 「ああーあ、何にもやってない、宿題」 |
女 | 「やったことないじゃない、いつも」 |
男 | 「ま、そうだけど」 |
女 | 「…飛びおりたら死ぬかな」 |
男 | 「死ぬよ、そりゃ」 |
女 | 「飛びおりよっか」 |
男 | 「いやだよ」 |
女 | 「こわいの」 |
男 | 「こわいよ」 |
女 | 「こわいよね、そりゃ」 |
男 | 「…」 |
女 | 「ガムのんじゃった、さっき」 |
男 | 「え?何で」 |
女 | 「だって、いきなりだったから、ケヘヘヘ」 |
男 | 「…ガムのむほどのことかよ」 |
女 | 「ガム消化すんの」 |
男 | 「しないで、そのまま出てくるよ」 |
女 | 「ゲッ、うそ。…何で、知ってるのよ。のみこんだことあん |
男 | 「あるよ」 |
女 | 「出て来た?そのまま」 |
男 | 「知らないよ。見ないだろいちいち」 |
女 | 「じゃ何で出てくるって言ったのよ」 |
男 | 「出て来そうだろ、消化しそうにないだろ。ガム…」 |
女 | 「そりゃまあ、そうだけど」 |
男 | 「…」 |
女 | 「どうした?ガム」 |
男 | 「えっ?」 |
女 | 「ガムよ、ガム…かんでないじゃない。」 |
男 | 「捨てた」 |
女 | 「えっ?」 |
男 | 「捨てたって」 |
女 | 「どこに」 |
男 | 「どっかそのへん」 |
女 | 「だめよ」 |
男 | 「だってもう、捨てたよ」 |
女 | 「誰かふんづけるでしょう」 |
男 | 「しょうがないよ」 |
女 | 「しょうがなくない…エチケットよ」 |
男 | 「やめてくれよ」 |
女 | 「探しなさいよ」 |
男 | 「帰ろう」 |
女 | 「ダメだって、ちゃんと拾って」 |
男 | 「もういいよ」 |
女 | 「拾うまで帰らない」 |
男 | 「どこか忘れたよ、もう…」 |
女 | 「…」(と、探している) |
男 | 「帰るぞ、オレ…」 |
女 | 「…」 |
男 | 「じゃあ…。」 |
―間。 |
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女 | 「あった…。ホラ、ここ…ちょっと拾いなさいよ… ねえ…。…ねえってば…」 |
―間。 | |
―誰もいない屋上。風の音だけ。 |
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女 | 「…誰かが、これふんずけて…あ、しまったって思う。 …靴の裏側にへばりついたガムをいまいましそうに、取る。 …ねばりつくガムにハラをたてる。…今日の日の不運を 一体誰につぐなってもらうのかを考える…ふと、誰もいない ことに気づいて、尚のこと、落ち込んでしまう…。 顔をあげると、夕焼けに街が染まっている。」 |
―風の音…。 | |
END |