X'mas Special (98/12/23 ON AIR)
『ローソク夜、1998。』  作:松田 正隆

登場人物

 

―夜。男女の前にはコタツの上のクリスマスケーキ。
ろうそくが何本か、ともっている。
ゆれる炎を前にして、
メリークリスマス。
メリークリスマス。
―間
男  消しいな。ローソク。
え?消すの。
消さへんの。
たん生日やないんやで。
あ、そっか
―間
どないすんの。
歌唄ってえな。
え?
クリスマスソング。
きーよしー。この夜らー。ラララー。 ラーラララァラー。
もうええわ。
じゃ、電気つけよっか。
うん。
…。
何。つけへんの。
きれいやな。思うて。
うん…。
食べるのもったいないな。
うん…。あたし、おなかへってへんから食えへんよ。
ええ?おれも、さっき食べたとこやし、カレー。
何でクリスマスにカレーやねん。
しゃあないやろ、残ってんのやから。
せっかく買うて来たのに。
そやから、もうちょっとしたら、食べるがな。
あ!なめんなや。
うわ、おいしい。
何でそんなことすんねん。
ええやないの。私が買うたんやから。
…おいしい?
うん。
…ほな、オレも…。(なめて)ほんまや、おいしい。
ね。
うん…。(と、またなめる)
ちょっ、やめえな。きたないやろ
何で。
そこは、あかん。
だから、何でや。
そこは私が食べよ思てたとこやねん。
…。何で、そんなこと決めんねん。
これ、えらぶ時から、決めてたんや、雪ダルマんとこは、
私がもらうて…。
かってに決めんなや。
ええやないの。私が買うたんやから。
お前な、それ言うたら、何でもゆるされるて思うてるん
ちゃうんやろな。
そうや。
これ買うたんがそんなにえらいんか。
えらいんや
もう、ええ。食べへん。絶対に食べへんし。
ええよ。食べんとき…。
―間。男ぶつぶつ、女ぶつぶつ。
―女。フーッとローソクを消す。
あ、おい。何、消してんねん。
…。
もう、電気つけるで。
去年は停電やったんやな。
え?
去年のクリスマス…。停電して…。ローソクつけたやん。
あ、そうやった?
覚えてへんの。
そういうたら、そうやった気もするけど。
私の部屋やったんちがうかな。ケーキはなかったけど…。
ああ、そうやったかな。
何や、早いな。もう、一年たったんやで。
うん…。…つけるで、電気。(と立って)
―と 電灯をつける男。
…別に、何もない一年やったけど…、それでも一年
すぎたことに驚いてまうわ。
何言うてんね。
何もかわってへん。あんたも…私も…。
そんなかんたんにかわれるわけないやろ。
ま、そやけど…
…。
私ね。ここに来る途中で蛇、踏んでもうたんよ。
え?蛇?
うん、びっくりした。…何で、こんなとこに、蛇がおるん
って思うた。
どこで。
そこの下の道。…しゅるしゅるっていきなり出て来て、
ふんだんよ。…ケーキおちそうやった。
こんな時期に?
そうなんよ。それで、びっくりして…ふっと、思ったんよ。
…何を…。
あんたの顔、思い出せるやろかて。
ええ?
こんな、思いがけず蛇を踏むようなことがあっても、
ちゃんとあんたの顔思い出せるやろかて…
…それで、思い出せたんか。
思い出そうとしてるうちに、この部屋に来てもうて、
そしたら、あんたがそこにおって思い出す間もなく、
あんたの顔を見てもうた。
何や、それ。
あ。…雪ダルマ…食べんといて。
…。
ほんま、食べんといてよ。
あ。
…何?
雪や…。雪降ってきた
ウソや。
ほんまやて。
何でわかんのよ。
…静かになんねん。雪ふると…。
…。
な。…静かになったやろ。
うん…。
―間。
と…雪がふっているのか?静かである。
音のない世界。声をひそめて女。
…食べんといて…あかんて…それだけは
食べんといて…あかん…。ちょっあかんて。
―雪が降る。音楽。