第138話 (98/11/20 ON AIR) | ||
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『わたしの作った歌が 行方不明です』 |
作:銀幕遊学・レプリカント 佐藤香聲 |
1 | わたしの作った歌が、行方不明です。 |
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ゆまし せれそ すわされ そんすれし |
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(1-chorus) | |
悲しくなったり、うれしかったり、 何かを忘れたい時、思い出したい時、 わたしは、言葉をハサミで切って、 勝手に並び変えてくちづさみます。 意味のない言葉は、歌になります。 |
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その歌が行方不明なのです。 カセットに吹き込んでおいたら、カセットごと失くなり、 歌の本にしまっておいたら、本ごとどこかに。 仕方がないので、壜詰めにしておいたら、 やっぱり、壜ごと消えてしまいました。 |
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これは行方不明になった歌の物語です。 | |
2 | (1-chorus) |
その歌が、どこからか流れてきたのは、 彼女の涙を、はじめて見たときだった。 |
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ゆまし せれそ すわされ そんすれし |
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涙ばかりを見ていて、 彼女の眼を見落としてしまう、ように 眼ばかりを見ていて、 彼女の顔を見落としてしまう、ように 顔ばかりを見ていて、 彼女の肩を見落としてしまう、ように 肩ばかりを見ていて、 彼女の全身を見落としてしまう、ように 彼女の1日を見落としてしまう、ように 彼女の経験を見落としてしまう、ように 彼女の経験ばかりを見ていて、 1日を見落としてしまう、ように 彼女の1日ばかりを見ていて、 悲しみを見落としてしまう、ように 彼女の悲しみばかりを見ていて、 涙を見落として、しまった。 |
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そうと気づいたとき、あの歌が どこからか聞こえてきたように覚えている。 |
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ゆまし せれそ すわされ そんすれし |
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それから二度と彼女と会うこともなかった。 ひとりで歌うには、孤独すぎる歌だった。 |
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3 | (1-chorus) |
眼が覚めた時、さっきまで、 そんな歌を聞いていたような気がしました。 彼はベッドに腰かけたまま、 一匙のコーヒーを湯に溶かしながら、 「さっき奇妙な歌を耳にしたんだ」と。 「ゆまし せれそ……」 「待って! その先は私が歌える。 とかく ときく やるみまき……」 彼はびっくりして、 「君も聞いたのか?」と言いました。 私がうなづくと、 「僕たちは同じ夢を見たんだ」 |
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(1-chorus) | |
ゆうべ、ふたりで寝る前に、私が 「どうして一緒に眠っているのに、別々の夢を見るのかしら?」 ってたずねたら、彼は少し考えて、 「きっと、目があいているとき、同じ夢を見てるからだよ」って 答えたのを思い出しました。 でも今、同じ夢を見ることができた、夢の中でも同じ歌を歌って いる。 |
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4 | わたしが、言葉をハサミで切って、 勝手に並べ変えて、くちづさんだ歌は、 今も行方不明です。 どうやって隠しても、失くなってしまうので、 もう、どこにも、しまわずに、 歌い続けることにします。 歌っているあいだは、そばにいられるから。 |
あなたにとって、歌は 孤独を深めるものですか? 絆を深めるものですか? |