第133話 (98/10/16 ON AIR) | ||
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『失われた動物たちの住む街』 | 作:飛鳥 たまき |
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私 | 迂闊なことに私はメガネを壊してしまった。 古いビルの壁のシミも、電柱にはられたビラの跡も、 アスファルトのつぎはぎも、いつもと違った輪郭。 街は不明確であいまいな存在感でたたずんでいた。 太陽が沈もうとしていた。 |
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ドードー | 「石蹴りしよう」 |
突然、ビルの蔭から大きなくちばしをした鳥が顔をだした。 羽飾りのような尾羽根、丸くて大きなお尻、短い足。 唖然とする私にその鳥はいたずらっぽい目をむけた。 |
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ドードー | 「あたし、ドードー」 |
私 | 「………ドードー??……ドードーって、あのドードー?」 |
ドードー | 「そう。あなたは?」 |
私 | 「ぼく?人間」 |
思わずそう答えた。 だって、そうじゃないか。街のど真ん中で、あのドー ドーに声を掛けられたら、そう答える以外何と答えら れただろう。 |
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ドードー | 「カルバリアみたいに堅い実、いっぱい落ちてるもんね。大好き」 |
ドードーは通りに散らばったギンナンを口いっぱいほおばった。 | |
ドードー | 「いっしょに遊ぶでしょ?」 |
私 | 「石蹴りするの。おもしろいのよ」 |
ドードーは力強い足で地面を蹴ってみせた。 | |
ドードー | 「石蹴りするものよっといでー」 |
と、電柱の蔭から、ビルの隙間から、並木の梢から 工事現場のショベルカーの蔭から、動物たちが次々現 れてきた。 |
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ドードー | 「この人、人間。一緒に遊ぼうって」 |
ドードーは仲間たちに私をそう紹介した。 | |
「ぼく、タスマニアタイガーってんだ。よろしく」 「はじめまして、私、ジャイアントモアです」 「(高い声で)あたい、グレートオーオー」 「おれ、ジョンブルグジカ」 「(木の実をほおばったままで)ミイロコンゴウインコです」 |
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フクロオオカミ、オオウミガラス、エピオルニス…… 本の中だけで生きている、失われてしまった動物たち…… 私は信じがたい光景をただ見つめていた。 |
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ドードー | 「いくよーー」 |
それが合図だった。(背景/歓声) ドードーは銀杏の木の根っこにころがっていた小さな 石を軽やかに蹴りあげた。(背景/小石が空を飛ぶ音) ドードーの足からジョンブルグジカの角へ、ミイロコ ンゴウインコの嘴からジャイアントモアの足へ、タス マニアタイガーからオオウミガラスへ… 石は一度も地面に落ちることなく、ゆっくり放物線を 描きながら、空中をとびかった。 |
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ドードー | 「ほら、人間も蹴ってごらんよ」 |
ドードーに促されて、私は石蹴りの輪に入った。 | |
(「ほれ」「そーれ」「いくよー」掛け声) | |
私 | 「よーし、いくぞ」 |
(「人間がんばれ」掛け声、笑い声) | |
(「あっーー」「落ちるよぉー」「あっあああーーー……」 動物たちそれぞれの叫び、声遠くから足元に小石の転 がってくる音。やがて街の雑踏) |
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気が付くと、異様に赤く大きな太陽。 街は深い秋色に染まっていた。 通りを行く人がけげんそうに私を見て過ぎた。 |
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それから三日して、メガネができあがった。 どんなに目をこらしても、古いビルの壁には薄汚れたシミしか見えない。 赤く大きな太陽が沈む夕暮れ、秋色に染まる街。あの日と同じ時刻。 私はメガメをとり、通りに立った。 |