第123話 (98/0 8/07 ON AIR) | ||
---|---|---|
『目覚め』 | 作:腹筋 善之介 |
俺は、人生で最悪の目覚めをしてしまった。 なにが最悪だって? 時間がないので、手短に、手短に話そう。 |
---|
今、上空何千フィートというところに、俺は、位置している。 もちろん、落下しながら。パラシュートも着けずに。 飛行機のトラブルにより、機体の外へ投げ出されたのだ。 ショックで気を失い、今目覚めた。最悪だ。 |
目覚めなければ、そのまま人生を終わらせれたのに。 目覚めたために、残り5分程の人生に、つき合わなければならない。 5分もかからないかもしれない。また気を失うかもしれない。 とにかく、ため息をついてみた。 |
「うがあぁぁぁぁほっあぁぁぁぁっっっっ!」 |
信じられない量の空気が、口の中に飛び込んできた。 冷たい空気なので、奥歯の虫歯がしみる。本当にしみる。 やはり歯医者に行っとくべきだった。しかも、ヤギ医院ではなく、丁寧な 久保医院へ。 ヤギ医院で、親不知を抜いたとき、2時間もかかった。 あの若い先生は、途中で先輩先生に、何度も何かを聞きに行って…… まあ、とにかく、しみる。 |
せっかく、珍しい人生の終わり方をするんだから、どんなところに落ちるか、 見てやろう。 瀬戸内海の小島が、目に入ってきた。 今日は運良く、運悪く?最高の天気、快晴だ。見晴らしがいい。 落ちていく恐怖感が、どんどん増していく。 せっかく、だから、周りの景色も見てやろう。 |
信じられない量の空気が、口の中に飛び込んできた。 冷たい空気なので、奥歯の虫歯がしみる。本当にしみる。 やはり歯医者に行っとくべきだった。しかも、ヤギ医院ではなく、丁寧な 久保医院へ。 ヤギ医院で、親不知を抜いたとき、2時間もかかった。 あの若い先生は、途中で先輩先生に、何度も何かを聞きに行って…… まあ、とにかく、しみる。 |
せっかく、珍しい人生の終わり方をするんだから、どんなところに落ちるか、 見てやろう。 瀬戸内海の小島が、目に入ってきた。 今日は運良く、運悪く?最高の天気、快晴だ。見晴らしがいい。 落ちていく恐怖感が、どんどん増していく。 せっかく、だから、周りの景色も見てやろう。 |
「うんごうっ!」 |
どうすればいいんだ。 体を、水平にしてみた。 |
「うひゃっぁぁぁー!」 |
体が、駒のようにくるくる回る。回る。 |
「ぬはっ!」 |
何とか、制御することが出来るようになった。 手足を大の字に広げて、微妙な手のひらの角度でゆっくりと回転すること が出来る。 |
「はうわっ!」 |
見える。もの凄い勢いで大きくなる淡路島が。 もっと東へ行けば、明石大橋も見えるのに。 |
「うおっ!」 |
微妙な手のひらの角度で、前にも進む! すごい勢いで、ずんずん進む。 まるで、スーパーマンのようだ。 だんだん、ハッキリと海面上の船などが見えてきた。 大海原をゆく貨物船。イカを捕るためのぽんぽん船。 |
少し、恐怖感が、なくなっていく。 風の抵抗を受けて、落ちているのに、浮いているような感じだからだ。 途中で、気を失うということは、もうないだろう。 つまり、地面に、もしくは海面に叩きつけられる瞬間まで、楽しむことが 出来るということだ。 最悪だ。 |
「ははははっー!」 |
笑ってみた。歯がしみる。 あと、1分位をどう過ごそうか。 昔を、回想しようか? 明石大橋を見るためにがんばるか? |
「ぬあっ-!」 |
とっくに、明石大橋は越えてしまったようだ。進みすぎた。 海が、少しどす黒くなっている。 塩屋の浜を越えて、須磨の方まで来ているのではないだろうか。 このまま行くと、俺の死ぬところは、西宮のヨットハーバーか? やはり、きれいな海がいい。 気合いを入れて、西の方角に向くようにがんばろう。方向転換。 |
「ちぇすとーーー!」 |
向くことが出来た。 少し、落ちるスピードが遅くなった。というか、少し浮いたようだ。 まるで、紙飛行機が、地面に落ちる瞬間に、また少し浮かぶように。 |
「はははははっあー」 |
もしかすると、ジグザグに落ちていけば、ある程度スピードを殺すことが 出来るかもしれない。 さらに、いい角度で海面に落ちれば、助かるかもしれない。 |
「うーりゃぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」 |
生きることに賭けることにした。 |
微妙な体のバランス。 海に落ちるように方向の確認。 失速しないように、ゆっくりと減速。 衝撃が少なくてすみそうな角度。 海面に着水する瞬間に顎を引くこと。 ぽんぽん船の近くに落ちること。 明石大橋にぶつからないようにすること。 |
脳細胞が、フル活動する。 着水するとき、衝撃で、気を失うだろう。だが、 |
「最高の目覚めにしてやる。くそっ!」 |