第122話 (98/07/31 ON AIR) | ||
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『緑の岬』 | 作:松田 正隆 |
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―夏の夜。公園のベンチ。 |
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男 | 「何?」 |
女 | 「なにって、別に何でもないんやけど」 |
男 | 「あ、そう…。」 |
女 | 「……」 |
男 | 「何やねん。」 |
女 | 「え?ああ…」 |
男 | 「用があるて、電話したんちゃうの?」 |
女 | 「うん。まあ、そんなんやけど…」 |
男 | 「オレ風呂行かなあかんねん」 |
女 | 「ふーん」 |
男 | 「11時までやねん。銭湯。何や最近、はよ閉めよるしな。」 |
女 | 「私、結婚すんねん」 |
男 | 「へー。ほんまに」 |
女 | 「こないだ、おばさんが縁談持って来て、いつの間にか決まっ たんよ…。」 |
男 | 「あ、そう。よかったやん。」 |
女 | 「うん。」 |
男 | 「おめでとう」 |
女 | 「ありがとう」 |
男 | 「へー」 |
女 | 「私も、もう30やしな。」 |
男 | 「どんな人?」 |
女 | 「学校の先生。」 |
男 | 「へえ」 |
女 | 「私、仕事も辞めよ思うて」 |
男 | 「そう。(パチンと足をたたいて)ああ、ここ蚊おるな。」 |
女 | 「…どう思う?ケンちゃん。」 |
男 | 「別にええんとちがう。学校の先生やったら、給料もワリとえ えやろから、ユウちゃんが、無理して仕事せんでもええや んか。」 |
女 | 「相手の人も、そんなふうに言うてくれるんやけど。」 |
男 | 「ほんなら、ええやん。」 |
女 | 「うん、まあ、ええねんけど。」 |
男 | 「ちょっと、かいいな、ここ。」(と、足などをかく) |
女 | 「…結婚すんのはどう思う?」 |
男 | 「どう思うて、ええやんか、結婚…」 |
女 | 「そうかな。そうやろか。」 |
男 | 「何や、まようてんの?」 |
女 | 「……」 |
男 | 「……オレ、風呂の時間あるし、行くわ。」 |
女 | 「な、ケンちゃん、ブランコ乗ろ。」 |
男 | 「え?」 |
女 | 「な、乗ろ、ブランコ。」 |
男 | 「嫌や」 |
女 | 「乗ろうなあ」 |
男 | 「何でそんなもん乗らなあかんねん。」 |
女 | 「乗ろ、乗ろ。」(と、立ってブランコへ) |
一二人、並んで、ブランコに乗っている。 |
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[SE:ブランコの音。] |
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男 | 「いつやねん。式。」 |
女 | 「9月」 |
男 | 「ほな、もうすぐやねえ。」 |
女 | 「うん。何や、むこう急いではんねん」 |
男 | 「ふーん。…それだけホレてんねん。ユウちゃんに。」 |
女 | 「どんどん話がすすんでいくやろ。…そしたら私、どんどん 不安になっていくねん。」 |
男 | 「何で…」 |
女 | 「これでええんやろかて思うてしまうねん」 |
男 | 「嫌なんか?」 |
女 | 「ウーン…」 |
男 | 「嫌やったらやめたらええやないか。」 |
女 | 「もうやめられへん」 |
男 | 「何でやねん」 |
女 | 「そんな、むちゃくちゃイヤっていうわけでもないねん。」 |
男 | 「ほんなら、ええやないか」 |
女 | 「それが、ええことないねん。」 |
男 | 「どないやねん。」 |
女 | 「わからへん」 |
男 | 「わからへんのやったら、とりあえず、いっとけや。」 |
女 | 「とりあえずいって、失敗やったらどないすんの?」 |
男 | 「そんときは、しゃあない。離婚したらええやないか。」 |
女 | 「そうか。そうやな。」 |
男 | 「何を今さら悩んでんねん」 |
女 | 「マリッジブルーっちゅうヤツやな。」 |
男 | 「あんたにはそんなん似合わへんわ。」 |
女 | 「ケンちゃんはどないすんの?」 |
男 | 「え?何が?」 |
女 | 「結婚せえへんの?」 |
男 | 「するわけないやないか、相手もおらへんのに。」 |
女 | 「するかもしれへんで?」 |
男 | 「相手もおらへんのにどうやってすんねん。」 |
女 | 「相手なんかどうでもええやん。」 |
男 | 「え?何でやねん」 |
女 | 「なあ、ケンちゃん」 |
男 | 「何や。」 |
女 | 「どっか行こう。」 |
男 | 「どこに」 |
女 | 「どっか。知らんとこ。」 |
男 | 「あのな、オレ風呂行かなあかんねん。」 |
女 | 「風呂は逃げへんて」 |
男 | 「もうすぐ閉まんねん。」 |
女 | 「風呂と私と、どっち大事なん?」 |
男 | 「ええ?」 |
女 | 「なぁ、どっち?」 |
男 | 「風呂。」 |
女 | 「ちょっと、ムカつくはそれ。」 |
男 | 「何でや。ええか、オレは汗くさいねんで。早よ銭湯行かな 閉まんねん。いきなり呼び出したんはお前やろ。ムカつく んはお前やで。」 |
女 | 「緑の岬って知ってる?」 |
男 | 「知らん!」 |
女 | 「夢で見たんよ、私…。緑の岬。」 |
男 | 「何やそれ。」 |
女 | 「その岬には、私の家の別荘があんねん。青い海にかこまれ て、それはそれは美しいとこやねん。」 |
男 | 「何でお前の家に別荘やねん」 |
女 | 「その白い小さなかわいいおうちには、バルコニーがあって。 なあ、けんちゃん。私と一緒に行かへん?」 |
男 | 「行かへん。」 |
女 | 「そこでしばらく暮らさへん?」 |
男 | 「暮らさへん!あのな、お前の気色悪いポエムにつき合ってる ヒマないねんオレ。」 |
女 | 「…どこでもええの。どこでもええねん。…どこでもええから、 どっか連れてってよ。なあ、ケンちゃん…なあ。」 |
男 | 「……。」 |
女 | 「……私、本気なんやで…。」 |
男 | 「…。オイ…ちょっとやめろや…。」 |
―男、ぶらんこをさらに大きくこぎ始める。 |
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男 | 「…ユウちゃん…。」 |
女 | 「…うん?」 |
男 | 「昔…よう、このぶらんこに乗ってあそんだな…」 |
女 | 「…うん…。」 |
―男、「ヨッ」と、跳んで着地する。 |
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男 | 「…さ、かえろか。…」 |
女 | 「うん…」 |
男 | 「送ってくわ。」 |
女 | 「…うん…。あ、でも銭湯は?」 |
男 | 「もう、ええわ…。明日行くわ…」(と歩く) |
女 | 「ごめんね、ケンちゃん…」 |
―二人、去る。 |
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ぶらんこがゆれる音。 | |
―終 |