第112(98/05/22 ON AIR) | ||
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『となり同士』 | 作:飛鳥 たまき |
五月 午前五時 晴れ 朝日が昇り始めた。 すずめが鳴き始める。 通りに、時折、行き過ぎる車 ランニングする若者 ウォーキングの老夫婦。六軒アパートの階段下 帰ってきた男(竹田)と 出て行く女(小川)が出会う。 |
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男 | 「あれ?」 |
女 | 「あら」 |
男 | 「えっ?」 |
女 | 「うん?」 |
男 | 「どうかしました?」 |
女 | 「どうかしたって?」 |
男 | 「それ」 |
女 | 「うん?」 |
男 | 「バッグ」 |
女 | 「あー、まあ……竹田くんこそ…どうしてた?」 |
男 | 「どうしてた?って」 |
女 | 「だって、よれよれじゃない」 |
男 | 「ええ」 |
女 | 「………昨日、いなかった…ううん、その前の日もいなかった、よね」 |
男 | 「53時間です」 |
女 | 「風邪でもひいてるんじゃないかなと思って、何度もノックしたのよ」 |
男 | 「実験で…」 |
女 | 「53時間?…ふう、大変だ」 |
男 | 「小川さんは?」 |
女 | 「ちょっと…ね…」 |
男 | 「充電」 |
女 | 「そう」 |
男 | 「大変ですね」 |
女 | 「わかってくれる?」 |
男 | 「ええ」 |
女 | 「いいな、竹田くんは」 |
男 | 「…そう見えますか…」 |
女 | 「みえる。竹田くんがあわててるのみたことないもん」 |
(ジョギングの人が走り過ぎる 『おはよう』『おはよう』) |
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女 | 「おはようございます」 |
(男、つられて頭を下げる) | |
男 | 「……あせってはいるんですけど…」 |
女 | 「へぇー、それで…」 |
男 | 「嫌な予感がするんです」 |
女 | 「嫌な」 |
男 | 「なんか…こう……大きな間違いしてるんじゃないか…って」 |
女 | 「へぇ、そんなことあるんだ」 |
男 | 「ええ……理屈じゃなくて勘ですけど……」 |
女 | 「でも、実験は順調なんでしょ」 |
男 | 「…まあ…」 |
女 | 「爆発したりはしないんでしょ?」 |
男 | 「…はは…爆発で済むいいんですけど……」 |
女 | 「そんな…こわいこと言わないでよ」 |
男 | 「………まあ、仮設そのものが否定されるというんじゃない限りは…」 |
女 | 「そんな…こわいこと言わないでよ」 |
男 | 「………まあ、仮設そのものが否定されるというんじゃない限りは…」 |
女 | 「ふーん、そうなんだ。でも、竹田くん、飽きないっていうか…集中力 あるっていうか……よくやるよね」 |
男 | 「たいしたことないです。小川さんこそ……パワーあると思って…」 |
女 | 「そう?でも、もう、パワー切れ。三百枚はスケッチしたのよ…」 |
男 | 「徹夜?」 |
女 | 「三晩」 |
男 | 「三晩も……やっぱり、小川さんすごいですよ」 |
女 | 「百枚デザイン描くと、一枚くらいは気に入ったのができるんだけど… いままでは。…それが、何かしっくりこないの…」 |
男 | 「…千枚…描いたら? |
女 | 「言ってくれるわねぇ……あーーでも、そうなのよね、 きっと…千枚描けば、一枚あるかもね」 |
男 | 「そうですよ…たぶん……きっと」 |
女 | 「…うーん……だめかなー旅に出たりしてると」 |
男 | 「脳みそフレッシュになるってのあるかもしれない」 |
女 | 「そう思う?」 |
男 | 「……いやー、ぼくは、実験室にこもる方ですけど…」 |
女 | 「じーっと」 |
男 | 「そしたら、ぱーっと開けてくるんです。もやもやしてたところが…気 分転換なんかしてたら、また、一からやりなおしで…」 |
女 | 「それもしんどいねぇ。私は、風にふかれたり、空見たり、ぼーっとし てる時、ぱっとひらめく方かな」 |
男 | 「ふふ…ぱっとですか?さすが、電球デザイナーですよね」 |
女 | 「あのね、竹田くん、電球ってやめてくれない。照明って言ってほしいわ」 |
男 | 「すいません」 |
(鳥の声、車の音) | |
女 | 「あー、いいお天気」 |
男 | 「『五月晴れの空が広がるでしょう』って、天気予報。……電車……時 間、大丈夫ですか?」 |
女 | 「……なんか、竹田くんと話してたら、出掛ける気なくしちゃったな…」 |
男 | 「すいません」 |
女 | 「ううん。…竹田くん、今日は?」 |
男 | 「休みです」 |
女 | 「そう。朝ごはんは?」 |
男 | 「はあ、食べたいです」 |
女 | 「みそ汁とご飯?」 |
男 | 「…納豆……」 |
(二人で階段をあがる) | |
女 | 「……千枚か……」 |
男 | 「…千枚でだめなら……一万枚」 |
女 | 「……ふふ…他人事だと思って…」 |
男 | 「…小川さんの照明いいですよね」 |
女 | 「あら、そう?」 |
男 | 「華やかで…優しくて…落ち着いてて…」 |
(二人、ドアのところで) | |
女 | 「…一万枚、描いてみるわ」 |
男 | 「えっ、…朝ごはん……」 |