第97話(98/02/06 ON AIR)
『小春日和』 作:飛鳥 たまき




(小春日和の昼下がり。
街を見下ろす丘の上の神社。
鳥が鳴いている。
木綿子がならす鈴の音、柏手2回)
木綿子 「県大会いけますように…学年末試験、助けて
ください…ジョニーがかわいい子猫を産みま
すように…集平たちが今年こそ一勝できます
ように…………おばあちゃんが早く元気にな
りますように………集平と…ずっと一緒にい
られますように…」
(集平、木綿子の姿をしばらく見た後、柏手2回)
集平 「…木綿子と…」
(集平、鈴を何度もならす。鳥の声。
二人ゆっくり歩きながら)
木綿子 「もう、集平はー。ふざけてばっかりなんやから」
集平 「長かったなあ。何、祈りよったん?」
木綿子 「うん?いっぱい。集平は?ちゃんとお祈りした?」
集平 「まあな」
木綿子 「真面目に手合わさんと聞いてもらわれへんよ
集平 「木綿子は、しょうもないことたのんだんやろ」
木綿子 「なによ、しょうもないことって」
集平 「ダイエット成功しますように、とか」
木綿子 「あーっ、ばかにしとう。そんなん頼まへんよ」
集平 「ほんなら…ジョニーがかわいい子猫を産みますように」
木綿子 「あーーっ」
集平 「県大会出られますように…」
木綿子 「なんで、なんで?」
集平 「あったりまえじゃ。木綿子の考えることくら
 いわかるわ」
木綿子 「うちだって……集平はサッカーのことばっか
 り頼んだやろ。ミラクルシュートがバシッと
 決まりますように…ベスト8に残れますよう
 に…」
集平 「…あのなー、そんなんは、祈ったり、頼んだ
 りすることとちゃうやろ。実力、実力や」
木綿子 「ほんでも、集平、『苦しいときの神頼み』得意やんか」
(『ええお日和ですな』
 二人の横を、参拝のおばあさんが歩いて行く)
木綿子 「こんにちわ。」
集平 「木綿子、ほんま、誰にでも声かけるなあ」
木綿子 「あれ、集平、知らんの?礼儀なんよ。お宮さ
 んで会う人には誰にでもあいさつするもんよ。
 みんなーーふふふ…みんな『神頼み仲間』な
 んやもん」
集平 「あのなー、木綿子はほんましつこいわー。俺
 は今まで一回も『苦しいときの神頼み』なん
 かしたことないで」
(木綿子、集平の顔をのぞき込みながら)
木綿子 「ほっ?へぇ?ふぅーっ…」
集平 「ほんまやて。俺は実力ちゅうんが好きなんや。
 シュウートを決めるんも実力。ゲームに勝つんも実力」
木綿子 「決まらへんのは?」
集平 「そりゃ……実力がないんや」
木綿子 「あれ?どないしたん?今日はえらいあっさり
 認めるやんか。ほんでも、うちは集平の実力
 信じとるよ。だから、あとは、『神頼み』や。
 うち、ようよう、頼んであげたし…」
集平 「いらんことするな」
木綿子 「ついでに、ええ彼女もできますようにって」
集平 「そんなん、誰が頼んだ?勝手に祈るな」
木綿子 「誰にも頼まれへんけど…」
集平 「ほな、頼むな。ほっといてくれ」
木綿子 「そっかー、よう考えたら、聞いてなかったわ、
 集平の好みのタイプ。言うてみ、どんな彼女
 がほしいんか」
集平 「ほしない」
木綿子 「まあ、だいたいわかるけど。髪が長ごーて、
 顔がすーっとしてて、女らしゅうて、黙って
 集平の後ろからついていくような…」
集平 「はずれや。かわいいて、甘えん坊で、ちょっ
 とわがままで、ちょっとあほで…」
木綿子 「ひぇーっ、集平、あほな子がええん?」
集平 「あのなー、もう…。どっちにしても俺のこと
 は頼んだりするな。自分のことを頼んどけ」
木綿子 「もちろんや。うちは頼んだで。(木綿子ベン
 チの方へ走りながら、ふりかえって)いっぱ
 い、いっぱい頼んだでー」
(集平追いつく。二人ならんでベンチに座る。
 二人、黙って街を見下ろす。鈴の音)
木綿子 「また、誰か願い事してはる……小春日和いう
 んやろ、こんな天気
集平 「うん」
木綿子 「気持ちええなあ」
集平 「……叶うたらええな、願い事…」
木綿子 「…うん……」
(鳥の声。鈴の音)