第84話 (97/11/07 ON AIR) | ||
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『ふたり』 | 作:冬乃 モミジ |
(街のどこか。公園とか、ビルとビルの間とか) (コンクリートの階段に男ひとり、女ひとり) (夜) |
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女 |
あのね、こっちのコップには男の人。こっちのには女の人が泳いで るの。でもお互いのことを気付いてもいないし、このままだと一生 二人は出会わないのよ。どうする? |
男 |
…そうだな、コップとコップのあいだに橋でも渡すか。橋があれば 人は渡ってみたくなるもんだ。 |
女 |
(笑い)じゃあね、あっちの木には男の人、こっちの木には女の人 が棲んでて、…地上には怖くて降りれないの。どうする? |
男 |
…そうだな、二人の背中に羽でも生やしてやるか。 |
女 |
(笑い)羽なんか生えたら、もっと他のところに飛んで行きたくな るんじゃない? |
男 |
それはそれでいいよ。そうなったらそうなった時のことだ。 |
女 |
ふーん。…(笑い)じゃぁ箱の中は? |
男 |
え? |
女 |
ひとつの箱の中には男の人。別の箱には女の人。箱はね、決して開 かないのよ。 |
男 |
うーん…(考えている)…うん、電話をつけてやろう。ああ、テレ ビ電話なら、なおいいな。 |
女 |
(笑い)ねぇ、…どうして二人を会わせるの?別に今、寂しくもな いかもしれないのに。相手がいることさえ知らないんだから、それ でいいのに。会ったらヤなやつかもしれないし、良くてもそのうち ヤなことがあるだろうし、良くても、…会えないとまた寂しくなっ たりするし。別に、コップの中で泳いでていいのよ、ずーっと。一人で。 |
男 |
…へぇ、ずいぶん悲観的だな。 |
女 |
そう?…別に、普通よ、ふつう。 |
男 |
…寒いな。やっぱり。 |
女 |
冬が来るの。日本には四季ってもんがあって、夏が過ぎて秋が来た ら、次は冬が来るのよ。 |
男 |
知ってるよ。 |
女 |
そう。 |
男 |
夜は暗くて昼間よりは、ちょっと冷える。ふつうだな。…俺は、生 まれてからずーっと一人で箱の中にいたら、やっぱりイヤだなぁ。 ああ、テレビ電話が欲しいと思うね。 |
女 |
(笑い)テレビ電話なんてこと、思いつきもしないよ。ぜーったい。 |
男 |
そうか? |
女 |
そうよ。だって、そんなものあることも知らないんだから。 |
男 |
でもな、小学生が描く未来予想図とかすごいぞ。 |
女 |
なんの話? |
男 |
人間には想像力ってもんがあるからな。自分以外にも人がいたらと か、話ができたらとか、想像するのは簡単だよ。 |
女 |
…理屈っぽい。 |
男 |
(笑い)お、(ポケットの中を探る)キャラメル食うか? |
女 |
うん、(食べる)…甘い。 |
女 |
ねぇ、今何時? |
男 |
時計、持ってないんだ。 |
女 |
そう。 |
男 |
時計はきらいだ。 |
女 |
(笑い)へぇー。ただの脳天気ってわけでもないんだ。 |
男 |
おいおい。 |
女 |
おしりが痛くなってきた。ねぇ、コンクリートってすごい冷たくな るのね。 |
男 |
冬が来るからな。 |
女 |
(笑い)あのね、すごく揺れる吊り橋を渡ってる時、むこうに女の 子がいたらね、その子の事が好きになるんだって。ドキドキの勘違 いで。知ってた? |
男 |
さぁ、…でもそんなもんじゃないか?恋愛してるヤツらなんて。い いよ勘違いで。その女の子が、もし凄い顔で俺を睨んでたら、たぶ ん好きにならないし、あるいはオヤジだったりバーちゃんだったり したら、意味が違ってくるもんな。 |
女 |
…なんで?なんで時計がきらい? |
男 |
イライラするからな。こっちが遅れても、待っても。 |
女 |
…ふーん。それ、時計のせい?相手か自分の責任でしょ? |
男 |
ん?…いや時計のせいだろ。俺、長いことイライラしてないし。 |
女 |
(笑い) |
男 |
おお、夜が明けてきたぞ。 |
女 |
ほんとだ。…朝の空気って宝物よね。 |
男 |
そうか。…ちゃんと帰れるか?家(うち)どこだ? |
女 |
近くよ。電車に乗って、二つ三つ行って、ちょっと歩いた…箱の中。 |
男 |
(笑い)なんだ、箱、出られるんじゃないか。 |
女 |
だからよ。出られなかったらよかったのにって話よ。 |
男 |
そうか?俺は楽しかったけどな。夜中にこんな場所で誰かに会える なんて思ってなかったし。 |
女 |
今日のことじゃなくてよ。…ほんと?楽しかった?でも、きっと毎 日だったらイヤになるわよ。そういうもんよ。 |
男 |
そうかな。…そうか? |
女 |
…いつも、この辺にいるの? |
男 |
…いや、時々。夜中に外に出たくなるときがあって。ここだった り、あとは、海のほうに行く時もある。 |
女 |
ふーん。…コップの橋の真ん中で会った相手にまた会いたいって思 ったとして、でも相手がそう思ってくれなかったら残念よね。 |
男 |
会いに行ったらいいだろ?いっそ相手のコップん中で泳いだらいいよ。 |
女 |
水があふれちゃうわよ。 |
男 |
(笑い)こわがりか? |
女 |
(笑い)こわがりよ。…さて、…帰ろ。 |
男 |
じゃぁな。 |
女 |
時々はいるの? |
男 |
ここに?…ああ、時々はいるよ。また、来るか? |
女 |
来ない。 |
男 |
そうか。 |
女 |
来るかもしれない。(笑い)でも居ないかもしれないもんね。 |
男 |
ああ。…居るかもしれないぞ。(笑い) |
女 |
どっちでもいいよ。(笑い)じゃぁね。 |
男 |
おお、またな。 終わり |