第83話 (97/10/31 ON AIR) | ||
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『一番好きな年齢(とし)』 | 作:片瀬 慶子 |
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沸騰する空気。突然の雨を逃れたクルマの中。 |
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女 | 「ずっと32歳になりたかったの。」 |
君は言った。 |
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女 | 「だから、この街ができる頃、私もう楽しみが
なくなってしまう。」 |
君と出会って3ヵ月。その間に君は32歳になった。
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女 |
「ちょうど、あの彼女たちぐらい、19か20。その感覚
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君の19歳はどんなんだったんだろう。表情をこわばらせ |
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女 |
「いい仕事をしたいわ。誰の感覚にも媚びないで。私が私 |
君から、新しい街で撮りたいと電話が入った時のことを思 |
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女 |
「広報室Mです。お疲れさまでございます。Iさんいらっ |
落ち着いた働く女の声。 |
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男 |
お疲れさま、僕ですけど。」 |
女 |
「ねぇ見た、見た、昨日の夕刊の1面。カラーで出てた、 |
男 |
君は急に少女の声になる。 |
女 |
「あそこでやりましょうよ。女の子は2人、姉妹っぽい感
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男 |
「OK」 |
その時僕はもう君と仕事をするのが好きになってた。
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女 |
「今からが本番ね。」 |
雨に濡れた君の髪は見たこともない、ソバージュヘアー。 |
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女 |
「泳ぐのが好きだから、濡れても大丈夫なスタイルにして
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君に驚かされるのが楽しかった。 |
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女 |
「ありがとう。あなたと仕事をすると楽しいわ、同志って
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そう言って駅でわかれてから、君と仕事をすることはなかった。 |