第75話(97/09/05 ON AIR) | ||
---|---|---|
「西野ゆり子先生の 『恋愛講座』第六時限」 |
作:飛鳥 たまき |
|
(西野ゆり子先生を囲んで、11脚のイスが 半円形に並んでいる。少しうちとけた感じ の男達のざわめき。ため息。) |
|
---|---|
ゆり子 |
「はい、小島さんの遊園地デートシュミレー ションとっても楽しかったです。このクラ スはほんと優秀。小島さんも後は実践ある のみ。がんばってくださいね。さあ、恋愛 講座第六時限、デートシュミレーション。 次は……小林さん、小林悠介さん」 |
小林 |
「えっーぼく?」 |
ゆり子 |
「そうよ、さあこちらへ出て来て」 |
小林 |
「あ、はい」(ガタッとイスの音) |
ゆり子 |
「もちろん、考えてきたわよね、シチュエー ション」 |
小林 |
「えーーまあー」 |
ゆり子 |
「どういうシチュエーションかしら」 |
小林 |
「えーと…遺跡…津ノ山遺跡」 |
ゆり子 |
「遺跡?!あら、おもしろい」 |
小林 |
「日曜日。津ノ山駅、11時」 |
ゆり子 |
「えー、そんな遠くで待ち合わせ?」 |
小林 |
「ダメですか…」 |
ゆり子 |
「…う…いでしょ、じゃ駅で11時。OK。 じゃあ行きましょう。私は先生じゃなくて 小林さんのお相手、ゆりさん」 |
小林 |
「向こうのこんもりした丘、あのふもとです」 |
ゆり子 |
「(その気になって)小林さん遺跡っておも しろいのですか。」 |
小林 |
「はい。すごくおもしろいですよ。ギャハハ ハハーっていうくらい」 (小林くん、とってつけたように大笑い) |
ゆり子 |
「……あのねぇー……」 |
小林 |
「ユーモア、ユーモアですよ。会話にユーモ アをって、ゆり子先生おっしゃったでしょ。 えーと……」 |
ゆり子 |
「第五時限」 |
小林 |
「そう、五時限目」 |
ゆり子 |
「…『自分らしさを』っていったわよ。第二 時限。無理しちゃあダメ。自分を作らない。 ちっともユーモアになってないわ」 |
小林 |
「お言葉ですが…先生それはないんじゃない でしょうか。笑って空気を和らげる努力を してるんです。相手のことを思う、四時限 目」 |
ゆり子 |
「OK。小林くん。(いつの間にか『くん』 になっている)努力は認めるわ。じゃ、こ こで皆さんにアドバイス。こうした努力が 空振りに終わった場合、気まずい空気をす かさず取り払らう方法です。はい、小林く ん、いいところでずっこけてくれました。 (笑い声)『自ら企てた行為の結果を言葉 にする』。例えば、こういう風に。『おも しろいとおかしいは違いましたね』」 |
小林 |
「なるほど…」 |
ゆり子 |
「少し私の方から話していきましょうか…… 遺跡のどんなところが魅力なんですか」 |
小林 |
「………どんなところって………ゆり子先生、 わかりませんか?」 |
ゆり子 |
「先生じゃなくってよ、ゆりさん。……私は あまりよくわからないのですけど…」 |
小林 |
「それは、…………じゃあ、ゆりさんは何が おもしろいのですか?」 |
ゆり子 |
「…ちょっとー……小林くん。ゆりさんはあ なたの答えが聞きたいのよ。人に話させな い。『まずは己を語る』第二時限。でしょ。 そんなつっかかった言い方をしない」 |
小林 |
「あっ……すいません。ぼく…遺跡のことに なると夢中になってしまうんです」 |
ゆり子 |
「夢中はいいけど、みんな、同じじゃあない からね」 |
小林 |
すいません」 |
ゆり子 |
「質問を変えましょう。…小林さんは遺跡に どうして興味をお持ちになったの?」 |
小林 |
「どうして…って……………。ぼく、小さい ころ、畑で土器のかけらをみつけた事があ るんです」 |
ゆり子 |
「土器?」 |
小林 |
「はい。ぼくの手のひら位の変形三角形だっ たんですけど。幾何学模様があって」 |
ゆり子 |
「縄文とか?」 |
小林 |
「いえ、そんな古いものではなかったんです けど…。その辺りはほんの五十センチばか り掘ると、なんだかだ出てきて…奈良時代 のものだって教えられて…子供心になんか 不思議な感じがしたんです。何百年も前の 人達が、今いる自分と同じ大地の上に立っ ていたっていうことに…」 (小林くん、これでいいのかという顔でゆ り子先生を見る) |
ゆり子 |
「続けて」 |
小林 |
「遺跡はロマンです……遺跡は想像力です。 土のわずかな色の違いの中に人間の営みを 見、何もない大地に古代の家を建て、欠け た土器に炎の強ささえ見るのです」 |
ゆり子 |
「………いいわ、その調子。その調子よ、小 林くん」 |
小林 |
「……ゆり子先生、退屈じゃないですか?」 |
ゆり子 |
「そんなことないわ」 |
小林 |
「そんなことないって……おもしろくないで すよね、こんな話……ゆり子先生だから聞 いてくださってるので……」 |
ゆり子 |
「そんなことないわ。ねぇ、みなさん。小林 くんの目、キラキラしてるわよね」 (終了のオルゴール) |
ゆり子 |
「小林くん、自信もってね。その目の輝きは 誰にも負けてないわ。それが分からないよ うな女の子はふっちゃいなさい」 |
小林 |
「そんな……ゆり子先生、過激なんだから… …」 (オルゴール) |
ゆり子 |
「時間ね。小林くん、とってもよかったわ。 今の感じよ。来週も、シュミレーションし ます。誰に当たるかわかりませんよ。考え てきてください。楽しみにしてます。じゃ あ、今日は以上」 (ゆり子先生出ていく。少しして、小林くん 走って先生の後を追う) |
小林 |
「先生」 |
ゆり子 |
「はい?…」 |
小林 |
「ゆり子先生、今度の日曜日……」 |
ゆり子 |
「…うん?…」 |
小林 |
「あーーーいいです……」 |
ゆり子 |
「ちょっと待って、小林くん。いいことない わよ。実践できなきゃ意味ないじゃない。 『自分の気持ちを素直に表現する』第五時限。 さあ、途中で止めたりしないで、最後まで ちゃんと話してごらんなさい」 |