第75話(97/09/05 ON AIR)
「西野ゆり子先生の
『恋愛講座』第六時限」
作:飛鳥 たまき

登場人物
先生 西野ゆり子(34才)
生徒 小林 悠介(31才)

 

(西野ゆり子先生を囲んで、11脚のイスが
半円形に並んでいる。少しうちとけた感じ
の男達のざわめき。ため息。)

ゆり子

「はい、小島さんの遊園地デートシュミレー
 ションとっても楽しかったです。このクラ
 スはほんと優秀。小島さんも後は実践ある
 のみ。がんばってくださいね。さあ、恋愛
 講座第六時限、デートシュミレーション。
 次は……小林さん、小林悠介さん」

小林

「えっーぼく?」

ゆり子

「そうよ、さあこちらへ出て来て」

小林

「あ、はい」(ガタッとイスの音)

ゆり子

「もちろん、考えてきたわよね、シチュエー
 ション」

小林

「えーーまあー」

ゆり子

「どういうシチュエーションかしら」

小林

「えーと…遺跡…津ノ山遺跡」

ゆり子

「遺跡?!あら、おもしろい」

小林

「日曜日。津ノ山駅、11時」

ゆり子

「えー、そんな遠くで待ち合わせ?」

小林

「ダメですか…」

ゆり子

「…う…いでしょ、じゃ駅で11時。OK。
 じゃあ行きましょう。私は先生じゃなくて
 小林さんのお相手、ゆりさん」

小林

「向こうのこんもりした丘、あのふもとです」

ゆり子

「(その気になって)小林さん遺跡っておも
 しろいのですか。」

小林

「はい。すごくおもしろいですよ。ギャハハ
 ハハーっていうくらい」
(小林くん、とってつけたように大笑い)

ゆり子

「……あのねぇー……」

小林

「ユーモア、ユーモアですよ。会話にユーモ
 アをって、ゆり子先生おっしゃったでしょ。
 えーと……」

ゆり子

「第五時限」

小林

「そう、五時限目」

ゆり子

「…『自分らしさを』っていったわよ。第二
 時限。無理しちゃあダメ。自分を作らない。
 ちっともユーモアになってないわ」

小林

「お言葉ですが…先生それはないんじゃない
 でしょうか。笑って空気を和らげる努力を
 してるんです。相手のことを思う、四時限
 目」

ゆり子

「OK。小林くん。(いつの間にか『くん』
 になっている)努力は認めるわ。じゃ、こ
 こで皆さんにアドバイス。こうした努力が
 空振りに終わった場合、気まずい空気をす
 かさず取り払らう方法です。はい、小林く
 ん、いいところでずっこけてくれました。
 (笑い声)『自ら企てた行為の結果を言葉
 にする』。例えば、こういう風に。『おも
 しろいとおかしいは違いましたね』」

小林

「なるほど…」

ゆり子

「少し私の方から話していきましょうか……
 遺跡のどんなところが魅力なんですか」

小林

「………どんなところって………ゆり子先生、
 わかりませんか?」

ゆり子

「先生じゃなくってよ、ゆりさん。……私は
 あまりよくわからないのですけど…」

小林

「それは、…………じゃあ、ゆりさんは何が
 おもしろいのですか?」

ゆり子

「…ちょっとー……小林くん。ゆりさんはあ
 なたの答えが聞きたいのよ。人に話させな
 い。『まずは己を語る』第二時限。でしょ。
 そんなつっかかった言い方をしない」

小林

「あっ……すいません。ぼく…遺跡のことに
 なると夢中になってしまうんです」

ゆり子

「夢中はいいけど、みんな、同じじゃあない
 からね」

小林

すいません」

ゆり子

「質問を変えましょう。…小林さんは遺跡に
 どうして興味をお持ちになったの?」

小林

「どうして…って……………。ぼく、小さい
 ころ、畑で土器のかけらをみつけた事があ
 るんです」

ゆり子

「土器?」

小林

「はい。ぼくの手のひら位の変形三角形だっ
 たんですけど。幾何学模様があって」

ゆり子

「縄文とか?」

小林

「いえ、そんな古いものではなかったんです
 けど…。その辺りはほんの五十センチばか
 り掘ると、なんだかだ出てきて…奈良時代
 のものだって教えられて…子供心になんか
 不思議な感じがしたんです。何百年も前の
 人達が、今いる自分と同じ大地の上に立っ
 ていたっていうことに…」
 (小林くん、これでいいのかという顔でゆ
 り子先生を見る)

ゆり子

「続けて」

小林

「遺跡はロマンです……遺跡は想像力です。
 土のわずかな色の違いの中に人間の営みを
 見、何もない大地に古代の家を建て、欠け
 た土器に炎の強ささえ見るのです」

ゆり子

「………いいわ、その調子。その調子よ、小
 林くん」

小林

「……ゆり子先生、退屈じゃないですか?」

ゆり子

「そんなことないわ」

小林

「そんなことないって……おもしろくないで
 すよね、こんな話……ゆり子先生だから聞
 いてくださってるので……」

ゆり子

「そんなことないわ。ねぇ、みなさん。小林
 くんの目、キラキラしてるわよね」
(終了のオルゴール)

ゆり子

「小林くん、自信もってね。その目の輝きは
 誰にも負けてないわ。それが分からないよ
 うな女の子はふっちゃいなさい」

小林

「そんな……ゆり子先生、過激なんだから…
 …」
 (オルゴール)

ゆり子

「時間ね。小林くん、とってもよかったわ。
 今の感じよ。来週も、シュミレーションし
 ます。誰に当たるかわかりませんよ。考え
 てきてください。楽しみにしてます。じゃ
 あ、今日は以上」
(ゆり子先生出ていく。少しして、小林くん
 走って先生の後を追う)

小林

「先生」

ゆり子

「はい?…」

小林

「ゆり子先生、今度の日曜日……」

ゆり子

「…うん?…」

小林

「あーーーいいです……」

ゆり子

「ちょっと待って、小林くん。いいことない
 わよ。実践できなきゃ意味ないじゃない。
 『自分の気持ちを素直に表現する』第五時限。
 さあ、途中で止めたりしないで、最後まで
 ちゃんと話してごらんなさい」