第73話 (97/08/22 ON AIR) | ||
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『夏、いとこ同志』 | 作:松田 正隆 |
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…大阪の大学生のタカコは、実家の初盆で田舎に帰省している。 縁側で素足をぶらぶらさせて、タバコをくゆらせているタカコ。 カナカナと、ひぐらしが鳴いている。 と、いとこのヨシオが顔を出す。 |
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ヨシオ |
「よお…」 |
タカコ |
「…ヨッちゃん。」 |
ヨシオ |
「何やってんの、こんなとこで。」 |
タカコ |
「暑いし、すずんでんの。久しぶりやね。」 |
ヨシオ |
「そうやな」 |
タカコ |
「何や、かえってたん。」 |
ヨシオ |
「うん。きのう、かえってきたんやけど。」 |
タカコ |
「いつまでおるん。」 |
ヨシオ |
「明日まで。」 |
タカコ |
「ふーん。ちょっとしかおらんのやね。」 |
ヨシオ |
「社会人は大変やねん。学生さんみたいにはいかんよ。」 |
タカコ |
「何しに来たん」 |
ヨシオ |
「何しにって…、オレ、お葬式出られへんかったし…」 |
タカコ |
「あ、そうか…」 |
ヨシオ |
「ここのおばあちゃんには、よう世話になったしな…」 |
タカコ |
「おじいちゃんも一緒?」 |
ヨシオ |
「うん…もう、あがっとる思うけど…」 |
タカコ |
「あ、ほな、あいさつせなあかんな…(と、タバコを消す。)」 |
ヨシオ |
「(少し笑って)何や…タバコなんか吸うて…。」 |
タカコ |
「ええやんか…。内緒やで…」 |
ヨシオ |
「うん…」 |
タカコ |
「ヨッちゃん、どうやって来たん、電車?」 |
ヨシオ |
「いや、車で。」 |
タカコ |
「え、車?…買うたん?」 |
ヨシオ |
「うん、そやから今も、おやじとおふくろ乗せて来たんよ。」 |
タカコ |
「そうなん…。じゃあちょっと、どっか連れてってよ。」 |
ヨシオ |
「ええよ…」 |
タカコ |
「ずっとここにおったから、退屈しててん。」 |
ヨシオ |
「ほな…また、夕方にでもむかえに来るわ。」 |
タカコ |
「うん、来て来て…」 |
ヨシオ |
「じゃあ…(と去る)」 |
タカコ |
「あ、そうや…私もそっち行くわ。」 |
…ひぐらしが鳴いている。 …夕方。 浜辺。波の音 二人は海を見ている。 |
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ヨシオ |
「…誰もおらへんな…」 |
タカコ |
「うん…ほんまやね…」 |
…間。 |
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タカコ |
「お盆って、死んだ人、海からやってくんのやろ。」 |
ヨシオ |
「ああ…何や、そんなこと聞いたことあるわ。」 |
タカコ |
「そやし、お盆は海で泳いだらあかんのと違う?」 |
ヨシオ |
「…」 |
…波の音。 |
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タカコ |
「…おばあちゃんが死んだとき…人が死ぬって…あたりまえの ことなんやけどね、人が、ひとりこの世からほんまにおらん ようになることなんやなぁって思うたんよ。…そのことが、 痛いぐらい実感できたんよ。…だって、…もう私はおばあちゃん には二度と会われへんのやから…何や…びっくりしたんよ…。 ほんま、不思議なことなんやなあて、思うたんよ。」 |
ヨシオ |
※「…涙は海と同じもの なまあたたく塩からい 夜の渚に光ってた 幾百万の夜光虫 夏のあの日の思い出は 苦しいくせに何故甘いの…」 |
タカコ |
「…何それ。」 |
ヨシオ |
「何や知らん。…誰かの話ちゃうかな…」 |
タカコ |
「へー。」 |
…波の音。 |
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ヨシオ |
「タカちゃん、海に入る。」 |
タカコ |
「えー。クラゲおるで」 |
ヨシオ |
「(かけてゆき、バシャバシャと海に入ってゆく) 大丈夫やて…」 |
…波の音。 沖にはぼんやり火がうかぶ。 ※引用、谷川俊太郎「歩くだけ」より |