第65話(97/06/27 ON AIR) | ||
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『いもうと』 | 作:桐口 ゆずる |
健吾のワンルーム。
深夜。 ビールを呑みながら、なんとなくテレビを見て いる健吾。 チャイムが鳴る。 |
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健吾 |
誰やろ? |
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ドアを開けると、妹の元子が立っている。 |
健吾 |
どないしてん? |
元子 |
… |
健吾 |
まあ、入れや。 |
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ふたりして、座卓の前に座った。 |
健吾 |
ビールでも呑むか? |
元子 |
‥‥うん。 |
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健吾、ビールを出してやる。 |
健吾 |
そら。 |
元子 |
ありがとう。 |
健吾 |
そや、金、返すわ。ボーナス入ったから。 |
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健吾、財布からお金を出して数える。 |
元子 |
お兄ちゃん、泊まってもいい? |
健吾 |
ええけど‥‥どないしてん? |
元子 |
ウチに帰りたないから。 |
健吾 |
オカンと喧嘩でもしたんか? |
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元子、プルリングを開け、ゴクゴクとビールを呑む。 |
元子 |
ああ、美味し。 |
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健吾、テレビを消す。 |
健吾 |
今日のオマエ、変やな。 |
元子 |
(立ち上がって)お兄ちゃん、あっち向いてて。 |
健吾 |
なに? |
元子 |
シャワー浴びるから。 |
健吾 |
ああ。 |
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元子、服を脱ぐ。健吾、背中を向けている。 |
元子 |
お兄ちゃん。 |
健吾 |
うん? |
元子 |
アタシ、女として魅力ない? |
健吾 |
‥‥急に、なんや? |
元子 |
やっぱり、いいわ。 |
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元子、ユニットバスに入る。シャワーの流れる音。 |
健吾 |
シャワーの流れる音に隠れて、元子は嗚咽していた。 オレはぼんやりテレビを見ながら、困っていた。きっ と元子はけろっとした顔で出てくるのだろう。知らぬ ふりを決め込むか、じっくり話を聞いてやるか。やっ ぱり、オレは頼りにならない兄キだった。 |
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回想。音楽。 |
元子 |
お兄ちゃん、元気だしって。他にもいっぱい女の子い るやんか。お兄ちゃんの魅力が分かる娘(娘)は他に おるって。お兄ちゃんのこと分かれへん娘のこと、い つまでも追っ掛けててもしゃあないやん。 |
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健吾がコーヒーカップを投げた。砕けるカップ。 |
健吾 |
オマエにオレの気持ちが分かるか! |
元子 |
‥‥アホ! |
音楽とクロスして、野菜を刻む包丁とまな板の音。ガスをつ け、フライパンで油がはじける。健吾がチャーハンを作って いる。 元子がユニットバスから出てくる。 |
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元子 |
ああ、さっぱりした。 |
健吾 |
喰うか? |
元子 |
チャーハン? |
健吾 |
オレが作れんのは、これだけやろ。 |
元子 |
早よ、ヨメサンもらわなあかんな。後がつかえてます よ。 |
健吾 |
ほっとけ。 |
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健吾が座卓にチャーハンを並べた。 |
元子 |
いただきま~す。 |
健吾 |
ソース。 |
元子 |
うん。 |
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ふたり、食べながら |
健吾 |
オレ、元子みたいな娘、捜すわ。 |
元子 |
アテあるん? |
健吾 |
ないこともない。 |
元子 |
お、隅におけにあね、兄キも。 |
健吾 |
ほっとけ。 |
元子 |
好み変わったん? |
健吾 |
学習の成果や。 |
元子 |
そやけどお兄ちゃん、自分のこと棚に上げて、面食い やからな。 |
健吾 |
一言多い。 |
元子 |
ほんまにアテあるん? |
健吾 |
ま、あたってみな、分からんけどな。 |
元子 |
そういうの、アテって言わへんのんちゃうん。 |
健吾 |
オマエの方はどうやねん? |
元子 |
(立ち上がって)ビール、もう一本もらうよ。 |
健吾 |
ああ。オレも取ってくれ。 |
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元子、ビールを冷蔵庫から出してきて。 |
健吾 |
(受け取って)サンキュー。 |
元子 |
(ビールをひと口呑んで)アタシもお兄ちゃんみたい な男捜すわ。 |
健吾 |
お、オマエもやっと大人になってきたな。 |
元子 |
やっぱり長く付き合うんやったら、スルメみたいな男 (ひと)がいいわ。 |
健吾 |
なんや、それ。 |
元子 |
噛めば噛むほど味がある。 |
健吾 |
オレはスルメか。 |
元子 |
じゃあ、アタシは? |
健吾 |
そうやな‥‥谷間のユリや。 |
元子 |
なに、それ? |
健吾 |
人知れず美しい。 |
元子 |
(吹き出して、げらげら笑う)真面目な顔して、慣れ へんこと言わんといて。わらける。 |
健吾 |
失礼な奴やな。 |
元子 |
あ、顔あかなってる。 |
健吾 |
ビール呑んでるやろ。 |
元子 |
あ! |
健吾 |
うん? |
元子 |
ちょうどいて!ちょっと! |
健吾 |
なんや? |
元子 |
すけべ!アタシが服脱いでた時、背中向けてる思った ら、そこの鏡で見てたやろ。ウワァ、最低な奴! |
健吾 |
見てへんて。誤解や、それは。 |
元子 |
ウワァ!ちょっと、離れて。早よ、離れて!危険やわ。 アタシ、やっぱりウチにかえろうかな。 |
健吾 |
オマエ、ちょっと言うてええことと悪いことがあるん ちゃうか。 |
元子 |
妹の裸見て欲情する男が、もっともらしいこと言わん といて。 |
健吾 |
‥‥たまらんわ、コイツ! |
元子 |
どっちが、たまらんのよ! |
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音楽。 |
健吾 |
その晩は、結局、一つしかないベッドを取り上げられ て、オレは床に座布団を敷いて丸くなった。ビールを 呑みすぎたせいもあったけど、なんだか、やけにほっ として眠れた。 |