第40話 (97/01/03 ON AIR) | ||
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『ハッピー・バースディー』 | 作:水こし 町子 |
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男 | 君の誕生日がくるね 寒いときに生まれたんだ |
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女 | 日曜日のお昼すぎに生まれたの えびすさんの日で 医者が早く生まれて 西宮のえびすにいかせてくれって わたしが聞いたわけではないけれど |
男 | 商売繁盛ささもってこいだ ぼくは ものすごい人波におされて いったことがあるよ なんの花がきみは好き? たくさんは出来ないけれど 誕生日に花束のプレゼントなんて すこしキザかな |
女 | うれしいな 赤いチューリップの花がいい 三日後ぐらいにしか開かない 硬いつぼみの もしかしたら 赤い花じゃあないかもしれない ドキドキして開くのを待っている 開いたら 花の真ん中に親指姫が ああ どうしよう 赤いちゅうりっぷが大好きなの 赤じゃあないとだめなの |
男 | すごい そんなに赤いちゅうりっぷが好きだって 知らなかった |
女 | ちゅうりっぷのことなら聞いて オランダじゃあなくて トルコの国が原産地なのよ 今は改良されてしまったけれど トルコのアナトリア地方には 道のふちに咲いているんだって そうそうトルコじゃあなくて 昨日ブータンの古い建物の調査に 行っている 友達から絵はがきがとどいたの 伝統的な家が並んでいて 町並みがとってもきれいです 日本に着物に似た民族衣装で どの人も明るくおだやかな感じです 標高2400メートルにある首都は 人も町も日本の近世にに戻ったようです この国がとても気にいってしまいました と書いて合あったのよ 切手はぞうの絵 いいわねぇ あちこちの国へ仕事でいけるなんて |
男 | 古い建物を保存していく 仕事はたいへんだと思う 須磨の離宮道ぞいにある ぼくの大好きな木造三階の洋館の家 新聞に登録文化財の第一号だって 載っていた この家はこれでずっと大丈夫だ 地震で屋根が壊れていたから 持ち主がつぶしてしまわないか 通るたびに心配していたんだ 大きな古い家が須磨には たくさんあったのにほとんど 地震でつぶれてしまった |
女 | えんとつがあって 家とおなじ高さの女の子 また家とおなじ高さで ちゅうりっぷが咲いていて 空はかならず青くて 子供の時 お絵書きで遊ぶ時に書いた家と 離宮道を歩いていたら よく似ていた 絵本の中にでてくる家のよう 私もあの家大好きよ 古い建物を見ると がんばれって声をかけたくなるわね 今でも その時に描いた絵がとってあるの 胴体からまっすぐの手がでていて 足もぼうが二本 そんな絵を描いていた頃のこと なつかしい そういえばもう長いあいだ クレヨンで絵を描くことがないわ もうクレヨンもないかもしれない |
男 | 絵を描くこともあまりないね 展覧会に行くのは好きだけれど 二人でスケッチブックを持って 春になったら なつかしい硬いクレヨンで 写生にいこうか 君の描いた絵をもらって ぼくの部屋の壁にはるよ |
女 | どうして毎年 誕生日がちかづくと 気持ちがそわそわするのかしら 誕生日の翌日なんて もうなんてことはないのに |
男 | 女の子だけかもね ぼくはそわそわしたりしないよ じゃあ 誕生日には 君の好きな赤いちゅうりっぷを 花束にして会いにいこう ENDING |