第33話 (96/11/15 ON AIR) | ||
---|---|---|
『私たち結婚しました』 | 作:飛鳥 たまき |
(チャペル。結婚式前の華やいださせわめき。 しばらくして、はじまりを告げる鐘の音が響く) |
|
---|---|
耕平 |
白いロードの向こう、頬を輝かせた 陽子が立っている。 オルガンのふるえる音色がチャペルを包む。 動悸が高まる 陽子はお父さんと腕を組み、顔を上げ、 俺に向かってまっすぐ歩いてくる。 |
陽子 |
結婚式は教会でって思っていた。 昔見た外国映画。 ---花嫁は少しうつむいて、かっこいいお父さ んと白いロードをゆっくり進む。--- えーっ、…父さん…変だよ、歩き方……リズム、 合わせてよー、ほら、いーち、にーい、一、二… |
耕平 |
お父さんは組んでいた陽子の腕をほどくと、 そっと、陽子を押し出した。 陽子と俺は並んで祭壇の前に立つ。 賛美歌が厳かに響いた。 陽子がキリッと口をむすぶのがわかった。 俺も背筋をのばす。 |
陽子 |
どこかで聞いたことがある。 どこかで歌ったことがある。 賛美歌。 島のおばぁちゃんも、ユキも舞子も…… みんなが歌っている。私たちのための祝いの歌。 |
(病めるときも、健やかなるときも……) |
|
耕平 |
「耕平、あなたは陽子を妻としますか」 問の答えは、はっきり、くっきり、 大きな声だぞ、耕平。……なのに…… 「はい」 気持ちとは裏腹に声はうわっずっていた。 |
陽子 |
ここは一番厳粛なシーン。 映画では確か、花嫁、花婿、 二人の顔のクローズアップ。 わっ……耕平… 裏返ってるよ。声。 |
耕平 |
「誓いのキスは好きなところに軽くですよ」 牧師はにっこりほほ笑んで、そういった。 陽子との約束は左のほっぺ。 そっとベールを上げる。陽子のふっくらした唇が 目に入った。 ふっ、ふふっ… 小さい笑いで空気が一気にやわらいだ。 えっ?…… |
陽子 |
えっーー、耕平、約束違うよ。 ほら、みんなが見てるわ。 思わず私は耕平をかわす。耕平の突き出した口は すべって左のほっぺにふれた。 |
耕平 |
「指輪の交換です」牧師が前に進み出る。 指輪に掘られた日付はプロポーズの日。 海沿いの道を夕日に向かって走りながら、 俺は力強くいう。 「結婚しよう」 一瞬の沈黙の後陽子は一言「はい」と答える。 思いっきり考えた、 思いっきりのシチュエーション。 なのに、大渋滞。 太陽はとっくに沈んでしまっていた。 |
陽子 |
ドライブの帰り、渋滞する国道をさけ、 左に大きくカーブをきった時だった。 「結婚しよっかー」 耕平はさらりといった。 「なんでこんなに混んでんだよー」 ぼやいた続きの台詞だった。 だから、 「そうしよっか」 私も軽く答えた。 |
耕平 |
チャペルの扉が大きく開かれた。 秋の日ざしが鋭く差し込む。 白くハレーションを起こした目の前に フラワーシャワーが降り注ぐ。 最高の笑顔を見せる陽子もストップモーション。 陽子は空高く投げ上げた。 |
陽子 |
空がぬけるように青い。 まばゆさに思わず目をとじた。 網膜に耕平の笑顔がやきつく。 映画ならここで終わる。 でも、耕平と私はここから始まるのだ。 |
拝啓 お元気ですか。 私たち結婚しました。 夢と希望と…愛にあふれています。 是非、見に来てください。 十一月十五日 耕平 陽子 |