第32話 (96/11/08 ON AIR) | ||
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『ひかりの箱』 | 作:み群 杏子 |
男 |
どんな花ならいいの? |
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女 |
花びらがハラハラと散っていくようなのが好きなの。 コスモスとか。 |
男 |
コスモスか。花屋に売ってるかな。 |
女 |
その辺に、咲いてるわ。 |
男 |
いいの? それだけで。 |
女 |
何が? |
男 |
つまり、その… 今夜の… |
女 |
ええ。 |
男 |
…かわった女だ。金は要らないから花をくれだなんて。 |
女 |
この部屋、散らかってるでしょ。いつも、整理することばかり 考えているんだけど、全然片づかないの。 |
男 |
…片づかないのは、僕の方だって同じだ。 |
女 |
ね、その窓から、観覧車が見えるでしょ。 |
男 |
好きなの?観覧車が。 |
女 |
好きなのかな… そうね、多分、好きなのよね。 |
男 |
女は、観覧車に乗ったまま、下りてこなかった幼なじみの ことを話していた。 |
女 |
私、今でも待っているの、もりお君を。 |
男 |
遊園地では、カーニバルが終わりかけていた。 音楽が、とぎれとぎれに聞こえては消える。 |
女 |
ほら、また、回り出した。 |
男 |
ひかりの箱は、女を乗せて、空へ空へと登っていく。 |
その夜は、一晩中、花の香りがして、僕を悩ませた。 |