第31話 (96/11/01 ON AIR) | ||
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『稲 妻』 | 作:桐口 ゆずる |
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都会から数十キロ離れた山間の農村 初夏 豪雨 二人の家 遠雷 |
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みずき |
ぜんぜん止めへんね。ゆうべからずっと降ってる。 |
たくま |
危ないな。 |
みずき |
また雷落ちるかな。 |
たくま |
雨や。裏の川、増水してるやろ。 |
みずき |
稲、水に浸かったら、あかん? |
たくま |
畑も危ないな。 |
みずき |
せっかく夏野菜順調やのに。 |
たくま |
カッパ。 |
みずき |
どうすんの? |
たくま |
オレ、ちょっと裏の川、見てくる。 |
みずき、カッパを渡して |
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みずき |
すぐ帰ってきてね。 |
たくま |
土嚢(どのう)積まなあかんかも知れへん。 |
みずき |
無理せんといてね。明日も会社あるでしょう。 |
たくま |
テレビのアンテナ。 |
みずき |
なに? |
たくま |
共同アンテナに雷落ちたら、また、ブラウン管とんでしまうやろ。 |
みずき |
そっか。アンテナ外しとくわ。 |
たくま |
ほんなら行ってくる。 |
みずき |
気ィつけてね。 |
たくま、豪雨の中を出ていく 地響きのような雷鳴 |
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みずき |
たくまの父が倒れ、急に始めることになった農業。田んぼ一面にすくすくと 育った稲。ようやく実り始めたナスビやトマトやオクラ。虫退治や草むしり が報われたとホッとする間もなく襲う土砂降りの雨と雷。 自然の力に恐れおののく、都会育ちのワタシ。でも、天に祈ろう。 この雷が、稲を育ませ、秋の豊かな実りを生むことを。 |
再び、地響きのような雷 そして 秋 稲刈り機のエンジン音 |
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たくま |
みずき、もうちょっとここの稲、釜で刈ってくれ。ターンできひんねん。 |
みずき |
え?このへん? |
たくま |
そうや。チクショウ、この稲刈り機、性能悪いんちゃうか。 |
みずき |
たくまの扱い方がヘタなんよ。お隣なんか、上手いこと田んぼのコーナー で回ってはるよ。 |
たくま |
そんなん言うんやったら、オマエ、やってみろよ。 |
みずき |
もう、早く稲刈って、五時までに、ライスセンターへ持って行かな、 乾燥してくれへんよ。 |
たくま |
分かってる。それにしても、思うように行けへんな。こんなことやったら、 オヤジが元気な内に使い方教えてもろとったらよかった。 |
みずき |
がんばれ、がんばれ、たくま! がんばれ、がんばれ、たくま! |
みずきの応援とエンジン音が遠ざかって その数週間後の夜 ふたりの家 虫の声 みずきはテーブルでマンガを熱心にかいている。 フンフンとか、突然ゲラゲラ笑いだしたりしながら 風呂上がりのたくまが缶ビールを開けた |
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たくま |
ふッ、美味~!久しぶりや、のんびりビール呑めるん。ふッ…好きやな。 まだ描いてんのか、マンガ便り。 |
みずき |
ちょっと見て。 |
と描いたマンガをたくまに渡し |
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たくま |
うん……… あ! |
みずき |
面白い? |
たくま |
これ何やねん「父ちゃんパソコン買いました。有機農業実践のホーム ページをインターネットに開けと夢は広がりますが、アナログ人間には セットアップに地獄の1週間」 |
みずき |
「母ちゃん、畑で草むしり。チョー苦手だった手足のない太短いモノも, 指で掴んでポイ」どう? |
たくま |
どうもこうも、パソコンの前でオレの髪の毛逆立ってるやないか…… そや、みずきのマンガ、ホームページに載せよか。 |
みずき |
え~,こんなん載せんの? |
たくま |
実家とか友達とかに送ったりするだけやったら、もったいないやろ。 |
みずき |
そらそうやけど……そやったら、もっと本気で描かなあかんな。 |
たくま |
…ちょう待てよ。これ、なんで、父ちゃんと母ちゃんになってんねん? |
みずき |
えへへ。 |
たくま |
……オマエ…… |
みずき |
(オナカに)父ちゃんは鈍感やね。田んぼと畑が忙しすぎるんかな。 でも、ええよね、生まれてから、思いっきり面倒かけたりね、赤ちゃん。 |
たくま |
なんで早よ言わへんねん。 |
みずき |
そや~、このネタもマンガにしよっと。 |
たくま |
オイオイ…みずき。 |
みずき |
(描いてる)なに? |
たくま |
オレ、会社辞めるわ。 |
みずき |
ウソ! |
たくま |
農業一本に絞りたい。確かに冒険かも知れへんけど、オヤジが死んでから、 有機農業一年やってみて、オレ、本気でやってみたいと思ったんや。 |
みずき |
(ちょっと考えて)たくまがそう決めたんやったら、ええよ。アタシも 一緒に頑張るし。ご苦労様でした、会社と田んぼと、大変やったでしょ。 |
たくま |
みずきも慣れへんのに、よう頑張ったな。結婚するとき、みずきの親父 さんに、農業だけはさせませんて、約束したのにな。破ってもうたな。 |
みずき |
そんなんええんよ。別に、アタシ、農業嫌いやないから。 |
たくま |
…ほんまか? |
みずき |
ほんまよ。 |
たくま |
…そうか。 |
みずき |
「ええ嫁さんやな」父ちゃん、こっそり目頭、拭う。母ちゃん、オナカに 手を当てて、夏の雷、思い出す。恐ろしかった雷様が、今年も一杯お米 作ってくれた。おまけに、元気な赤ちゃんも、母ちゃんしっかり授かった。 めでたし、めでたし。 |
たくま |
アホ… |
みずき |
嫌や、たくま、ほんまに泣いてる。 |
たくま |
アホ、ビールが苦いんや。 |
みずき |
フフフ、もう一本開けよか。 |