第235話 (2000/09/29 ON AIR)
不思議な洞窟』

  

作:四夜原茂

どこかの洞窟の中らしい。音声が反響する。
足もとの水たまりに足をひたしながら
男が歩いている。息が荒い。

ハア、ハア、ハア…いったい何をやってんだオレは、
どうしてこんな所を歩くはめになったんだ…ハアハア…。
思い出せないぞ、何も思い出せない…ハアハア…。
きっと夢だ。きっと。

こっち、こっち、こっちよー(ココー)。

またあの声だ。どっちなんだよ、こっちって言ったって
真暗なんだからわからないだろ…ハアハア…。
なんかナミエの声に似てるよな、昔、ナミエと温泉に行った時、
あいつよく似たこと言ってたよなぁ、
「誰もいないから、こっちに来たらー、こっちよ、こっちー」

まだ誰もいないからこっちに来たらー、こっちよ、こっちー。(エコー)

ははーん。やっぱり夢だ。おんなじこと言ってやがる。
夢ってのは昔の思い出とかがもとになって、
それを切ったり貼ったりしてできてるもんだからな。
えー、どっちだっけ…ハアハア…。まてよ、温泉でオレは、
ナミエに言われたとおり2メートルくらいの壁をよじ登って女湯に行ったんだ。
そしたらいきなりオバチャンの大群があらわれた。扉をガラガラーと開けてな。
なんと、ナミエのやつさけび声を上げたよな「キャー」って。
無茶苦茶だよ、本当に。素裸の男が女湯の仕切りをまたいでて、
若い女が「キャー」だよ。
そのあと…うー、思い出したくもない悲惨な思い出だ。帰ろうかな。
えーと、…帰るったってどっちにかえればいいんだよ。こっちかな、…アー!!
バシャンと男はたおれた。

いててて…。何だこれは。こんな所に丸太が…あれ…丸太じゃないよ。
なんかおしりのあたりがくすぐったいよ。あれ。あれ、あれ、あれ?
…うっうっわー!これ、しっぽだよー!オレ、おしりから…しっぽ出てるー。

あなたー、はやくー。はやく来てー。(エコー)

そうかー。しっぽがあるってのはこんな感じなんだ。
まあ、夢だから本当にそうかどうかわかんないけど、恐竜の気持ちが少しわかる
感じだなあ。
それにしても…けっこう長いよ、これ。ええと…ええと…すっげー。
5mくらいはあるよ。あれ?待てまて待てよ、いつだったか誰かに
「しっぽが短い」って言われたような気がするぞ。えー?!
オレ人間なのにどうして「しっぽが短い」なんて言われたんだろ?
なんか白い服を着て、メガネをかけたやつが「シッポが短いし、動きが鈍い」
なんて言ってたぞ。あれは…あははは…やっぱり夢なんだよ。
あれも夢の中の出来事だったんだよ。

なにやってるの?あなたー。がんばるのよー。(エコー)

がんばるって、何をがんばるんだよ。かってなこと言うんじゃないよ。
目標もないのにがんばれるかって。あれ?しっぽが動いてる。ちょっと押すなって
なんで押すんだよ。どうして?え?いや、オレ帰るんだよ。出口に帰るんだって。
おい、かってに動くんじゃないって、あー!!
バシャーンとまたたおれた

うぐ、あぐ、うぐ。ちょっ、うぐ、あぐ…。ちょっと待ってて、ここ水が
たまってんだよ。水って言うかネバネバが…、あ、そうか。こうやって泳ぐと
楽なんじゃないか。おお、いいじゃないか。しっぽはかってに動くし、楽チン楽チン。

うふふふ…。今日ね、だいじょうぶなのよ。(エコ)

なんだ?何がだいじょうぶなんだよ。主語をちゃんと言えよ、主語を。
何がだいじょうぶなんだろう。まあ、あれか、何かが大丈夫なんだな。
「危険よ」とか「あぶない」なんて言われるより「大丈夫」って方がいいよな。
…あれ?待てよ。なんか変だな。「だいじょうぶ」って方が「あぶない」って話、
どこかで読んだような気もするな。…まあ、いいか。これこれ、この「ま、いいか」
これがオレの性格なんだよな。「なんかめんどくさいなあ、ま、いっか。」
これでオレは30年以上生きてきたわけだ。まあ、いろいろ大変な目に会ってきたわな。
この「ま、いっか」で。

でも、もしもってこともあるからー。そのときは、…ね。(エコー)

おいおい、こんどは主語も述語もないよ。「そのときは…ね。」なんなんだよ、
ぜんぜん意味がわからないじゃないか。お。ちょっと洞窟の感じ変わったな。
さっきよりせまくなった。こうやって両手を広げると壁に手がとどいちゃうよ。
そろそろ終わりなんじゃないか。ゴールだよ、ゴール。
ゴールには、何があるのかなー?。…あー!!

曲、喫茶店の店内のような。

おはよう。

ん…んんん、うーん。あれ?ナミエじゃないか。

あー、寝ぼけてるー。

あれ?あ、オレ寝てた?

ごめんなさい。ちょっと仕事が長引いちゃって。

ああ、いいんだよ。何か変な夢見てたみたいなんだ。
なんか洞窟をね、探険したりして…。

洞窟を?なにそれ?

さあ。何にする?コーヒー?

ええと、コーヒーは、やめることにしたの

ええ?ナミエ、コーヒーやめるの?どうして?
あんなに好きだったのに。

でもやめることにしたの。

ふうん。あーあ、オレのコーヒー冷めちゃってるよ。
ま、いいか。

(おわり)