第222話 (2000/06/30 ON AIR) | ||
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『まつりばやし』 | 作:深津 篤史 |
ざわめき。百貨店屋上。ビアガーデン。 | |
女 | ここ、いいですか |
男 | え |
女 | あ、ごめんなさい |
男 |
いや、こんなとこに男一人ってのもあれですよね |
女 |
私も |
男 |
あ、いえ |
女 |
女一人でビアガーデンっていうのもねえ |
男 |
あ、いえ、その |
女 |
仕事の帰りですか |
男 |
まあ、はい |
女 |
あ、すいませーん |
ざわめき | |
女 |
忙しそうですね |
男 |
すいません、注文…あらら |
女 |
私、急ぎませんから、近くに来た時に |
男 |
でも |
女 |
どうぞ、その、のんでてください |
男 |
はあ |
女 |
ってやりにくいですよね |
男 |
いや、その |
女 | すいませーん、あの…あ生ビール1つ |
男 |
無愛想な奴だな |
女 |
(少し笑って)仕事、何なさってるんですか |
男 | 営業です。夏場は大変ですよ |
女 | そう |
男 |
OA機器を取り扱ってるんですけど |
女 |
はい |
男 |
つまらないですよね、こんな話 |
いえ |
|
男 |
もうちょっとこう楽しい話をできれば |
男 | あ、いえ、その |
女 | やっぱりヘンですよね、こんなとこで一人で |
男 |
貴方は |
女 | え |
男 |
貴方のお仕事とか |
ドン、とジョッキをおいた音 |
|
男 | 乱暴な奴だな |
女が少し笑った |
|
男 |
え |
女 |
怒るとマユ毛がピクピクするんですね |
男 |
あ、いや、まあ |
女 | 変わってない |
男 |
え |
ざわめきはきこえない |
|
女 |
腹が立ったら怒ってもいいんだよ |
男 |
君は |
女 | 元気? |
男 |
ええと |
女 |
覚えてない、覚えてないよね |
男 |
昔って |
女 |
今日は何日 |
男 |
7月… |
女 | なつかしいよね、あの頃 |
男 |
え |
女 |
金魚すくい上手だったよね |
男 |
金魚 |
女 |
おわんにいっぱいとってくれたでしょ |
男 |
そういや、今日は |
女 |
夏祭り |
男 |
ああ、うん |
女 |
二人で氷イチゴ食べたでしょ。 |
男 |
小学生の頃だっけ |
女 |
そう |
男 |
でも… |
女 |
ねえ、聞こえる? |
男 |
え |
女 |
まつりばやし |
男 |
うん |
女 |
良かった |
男 |
君は… |
女 |
私の事は忘れちゃってていいよ |
男 |
ごめん |
女、少し笑ってジョッキを合わせた。 |
|
男 |
おい |
ざわめき | |
男 |
覚えているのは、まっ赤な氷イチゴ |
了 |