第221話 (2000/06/23 ON AIR)
『普通の男』 作:青木 秀樹




喫茶店にて、一男、高校の後輩のユミを待っている。
ユミ来る
ユミ 「ゴメンなさい遅れちゃって、そんなに遅れてないですよね」
一男 「こっちこそ悪い、急に呼び出して、ホットでいい(遠くに)
すいませんホット一つ追加」
ユミ  「先輩に呼び出されるなんて、初めてじゃないかな」
一男  いやあ、お前が婦人警官になったって聞いたからビックリしてさ」
ユミ 「何かくれるんですか」
一男 「ああ、あげてもいいよ、どう婦警さんは」
ユミ 「何かね、このごろの世の中でしょ、色々大変ですよ」
一男 「だろうな、今何やらされてんの?」
ユミ 「子供の虐待を調べてるんですけどね」
一男 「いやな世の中だよな、子供の虐待かあ」
ユミ 「動物虐待もあるし、どうなるんでしょうかねこれから」
一男 「動物の次は、何だ?虫か」
ユミ 「虫虐待する奴はいても事件にはならないでしょ」
一男 「わからんぞ公園いっぱいに蝶々の羽と胴体と足がびっしり
敷き詰めてあったらどうする?立派な事件じゃないか?」
ユミ 「立派な事件って言うのかしらそう言うの」
一男 「虫の次は何だ」
ユミ 「そうね虫の次、虫の次、虫の次、有機物から無機物に行く
んですかね」
一男 「無機物虐待しても面白くねーだろ、あれか人間とかマネキ
ンとかイジメんのか?」
ユミ 「そうね」
一男 「でもフィギュアとか集めてる奴多いだろ今」
ユミ 「あれって虐待?」
一男 「虐待の一歩手前じゃないかな」
ユミ 「そんなもん?」
一男 あ、そう言や、俺の友達にねハリウッド映画の大作をねヘ
 ンな見方するやつがいるんだよ」
ユミ 「ヘンって?」
一男 「映画館ではまず見ない、ビデオ化されてから、それでもす
ぐには借りないんだよ、世間のほとぼりが冷めて、今時そ
んなの借りて観る奴はいねーよってくらいになってやっと
借りるらしいんだ、多分地球上で今このビデオ見てるやつ
は自分だけって時にね、例えば今、「タイタニック」観る
とかね、それもスンゴイ忙しい仕事の合間かなんかにね、
チラチラって目の端に映るくらいのもったいないくらいの
見方するんだって、そうすりゃものすごく面白いらしいん
だよ」
ユミ 「何じゃそりゃ」
一男 「その目の端々に映った瞬間瞬間の映像がね、世間をブーム
巻き込んだ何億ドルって金のかかった映像って事で面白い
らしいんだ」
ユミ 「それが無機物虐待と何か関係あるんですか?」
一男 「だからそいつの考えではそういう世間をブームに巻き込ん
だ映画をゴミの様に扱う喜びってのがあるって事らしいん
だ、それって精神的無機物虐待って事にならない?」
ユミ 「分かんない、もうそんな奴の考えは全然分かんない」
一男 「だよな」
ユミ 「あ、そういや私の知り合いの男にね、宮沢りえのサンタフェ
とか管野のヘアヌード写真集を今500円くらいで古本屋
から買って来て、ハサミでバシバシ切り裂いてる奴がいた」
一男 「それ、スンゴイ贅沢っちゅーか」
ユミ 「それも無機物虐待じゃない?あのブームをゴミの様に扱う
って意味じゃ同じじゃない」
一男 「大丈夫かお前の友達、変態じゃないか」
ユミ 「先輩の友達といい勝負だと思うんだけど」
一男 「そういうチマチマ変態じみた事件がこれから人間の快楽に
なっていくんだろうな」
ユミ 「で、先輩、そろそろ本題に入りませんこと」
一男 「えっ本題って」
ユミ 「私、最近昔の知り合いとかによく呼び出されるのよねえ」
一男 「え、そ、そうなの」
ユミ 「私が婦人警官になったってどこで聞いたか知らないけどね」
一男 「そ、そうなんだ」
ユミ 「婦人警官の制服貸して欲しいってみんな言うのよねえ」
一男 「えっ、み、みんな…」
ユミ 「まさか、先輩もそうじゃないでしょうね」
一男 「…で、お前貸すのか?」
ユミ 「貸すわきゃないでしょ!」
一男 「ダメ?」
ユミ 「ダメに決まってるでしょ!この変態!」
一男 「でも、お前のボーイフレンドは婦人警官の服着てくれとか
言わない?」
ユミ 「そりゃ言うわよ」
一男 「言うんじゃないか!だろ?」
ユミ 「だろじゃないでしょ!この変態!あ!分かった先の友達の
話って先輩でしょ」
一男 「そう言う写真集切り裂き男ってお前のボーイフレンドなん
じゃないか」
ユミ 「そうよそうなのよ、あ、男って奴は何で皆変態なのよ」
一男 「普通だよ、それくらい」
ユミ 「普通じゃないわよ」
一男 「いや、今、ちょっと変態ぐらいが普通の男だよ」
ユミ 「ちょっと変態ぐらいが普通の男ってんなら普通の普通の男
ってどういうのよ!」
一男 「だから物足りないぐらいの男が普通の男なんじゃないか」
ユミ 「だったら普通の男は物足りないじゃない」
一男 「だから物足りないって感じる君も変態なんだよ」
ユミ 「私は変態じゃない!」
一男 「じゃあ君も物足りない女って事だな」
ユミ 「変態の先輩に言われたくないわよ!このミニスカポリス好き!」
一男 「お前がミニスカポリスなんじゃないか」
ユミ 「ミニスカじゃないわよ、膝下ポリスよ」
一男 「何のために婦人警官やってんだよお前 ミニスカにもしないで何考えてるんだ!」
ユミ 「うるせえー変態!」銃声バアンバン
喫茶店に響き渡る変態論はさらに続く