第220話 (2000/06/16 ON AIR) | ||
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『水族館』 | 作:久野 那美 |
父 | 海から遠く、離れることにきめました。 大きな町を作る場所は海から遠く離れたところがいいのです。 海から遠く離れたところに。 大きな立派な町ができあがりました。 みんな海が恋しくて、こっそり海へ帰ってきてしまうからです。 これでは町ができません。 新しい町の町長さんは考えました。 そして。いいことを思いつきました。 大きな入れ物を作って、海を少し持っていくことにしたのです。 大きな入れ物が町の真ん中におかれ、町の人の人数分だけ海が注がれ それでも。大きな海の入れ物はあんまり人気がありませんでした。 気持ちがしっくりこないのでした。みんな気恥ずかしくなるのでした。 海から遠く離れて来たのに町の真ん中に「海」を飾っておくなんて、 なんだかとてもみっともないことのような気がしたのです。 町長さんはもっと考えました。 そして。いいことを思いつきました。 ここは町なのだから。「海」にも、住人を募集すればいいじゃないか。 魚たちに頼んでみました。 海藻たちに頼んでみました。 海辺の動物たちに頼んでみました。 こうして、町の真ん中に、魚たちの暮らす小さな「海」ができあがりました。 町は空っぽにならなくなりました。 みんな魚に会うのを口実に、「海」を見に行くようになったからです。 |
日曜日の昼下がり。 水族館の中で、父親と小さな娘が語り合っている。 |
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娘 | …おしまい? |
父 | …おしまい。 |
娘 | …ふうん。 |
父 | どうした? |
娘 | それって、昔話? |
父 | そうだよ。 |
娘 | ほんとの話? |
父 | ほんとの話。おとうさんのおとうさんのおとうさんのおとうさんが、 そのお父さんから聞いた話。 |
娘 | …だから、日曜日になるとみんな水族館へ来るの? |
父 | そうだよ。 |
娘 | だから、今日もこんなに混んでるの? |
父 | うん。 |
娘 | あたしたちじゃなくて、みんな海を見にくるのね。 |
父 | そう。そして私たちがそれを手伝う。 |
娘 | なんか、かっこいいよね。 |
父 | かっこいいだろ。 |
娘 | …おじいちゃんも、そう言ったの? |
父 | …。 |
娘 | 蛸のプライドだね。 |
父 | …。 |
娘 | ねえ。おとうさん。 |
父 | うん? |
娘 | あたしも、海が見てみたい。 |
父 | … |
娘 | あたしたちが海をみたいと思ったら、どうすればいいんだろうね。 |
父 | …うーん… |
娘 | ああ。おとうさん。うしろむいちゃだめだよ。ほら、子供がこっちみてる…。 |
おしまい。 |