第214話 (2000/05/05 ON AIR) | ||
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『あんまり居ない泌尿器科の女医』
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作:四夜原 茂 |
ノックの音。 |
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女 | はい、どうぞ。 |
男 | 失礼しまーす。(何故かうれしそう)。 |
女 | じゃ、ズボンとパンツを脱いで、ベッドに横になって下さい。 |
男 |
え?!いきなり…ですか? |
女 |
ああ、ごめんなさい。ちょっとあわててるるわ。今日、とっても混んでてね。つい段取り忘れちゃって…。ええと、まずその |
男 |
あ、これですか。はい。 |
男がイスに座る音。 | |
男 |
今日、混んでるんですか?。 |
女 | そうなのよ。たまにあるんだけどね、こういう日。朝からひっきりなしに…。 |
男 |
朝から…大変ですね。 |
女 | 本当、体がいくつあっても足りないわよ。で? |
男 |
でって? |
女 |
どうしたの?何かあったから、ここへ来たんでしょ。 |
男 | あ。ええ、それは…ええ、何かあったから来たんですが…、やっぱり、理由とか言わなくちゃいけないんでしょうか? |
女 |
アハハハ…、なに言ってるの、アハハハ…。言わなくちゃわかんないでしょうが。まあね。だいたいの想像はつくけどね。 ここへ来る人のほとんどは同じような症状で悩んでるの。 |
男 |
症状…。 |
女 |
そう。当ててみましょうか。。 |
男 |
はい。 |
女 |
モヤモヤするんでしょ、下半身が。 |
男 | …当たりました。 |
女 |
ほらほら、朝からあなたで20人目よ。 |
男 |
20人…、たいへんですね。 |
女 |
たいへんよぉ。この仕事は体力なくちゃやれないんだよ。まあ、お給料はね、あれだけど。 |
男 | いいでしょうねぇ。 |
女 |
ま、そうね。ええと、それでモヤモヤするわけね。だいじょうぶ、すぐ楽にしてあげるから。 |
男 |
はい。よろしくお願いしまーす。 |
女 |
心当たりはどう?何かある? |
男 |
心当たりですか…ええと…。 |
女 |
わかってる。話しにくいのはわかってる。でも誰も居ないのよ、 |
男 |
はい。一ヶ月前に彼女とケンカしちゃってですね。それからその…。 |
女 |
彼女と一ヶ月前にケンカして、その後発病した。 |
男 | 発病?あの、これって、病気…。 |
女 |
病気なの。そのままにしとくと大変な事になることもあるのよ。 |
男 |
長いですか? |
女 |
長いわね。早い人で2週間くらいで自覚症状が出るから。 |
男 |
いや、あの、自覚症状はもっと前からあったんです。 |
女 | なんですって?じゃあどうしてもっと早く来なかったの。はずかしいからがまんしてたの? |
男 |
は、はあ、まあ、そうなんです。 |
女 |
いけないなあ。がまんしてて、手おくれになった人も多いのよ。 |
男 |
手おくれってその…どうなるんですか? |
女 |
腎臓がダメになるの。 |
男 |
腎臓が?! |
女 | 知らなかったの?ああ、やっぱりみんな知らないのよねぇ。知らないから次々と感染しちゃって私がいそがしくなっちゃうわけよね。 |
男 |
え?……感染? |
女 |
そう。きっとあなたの前の彼女もそうだったのよ。 |
男 |
前のって、まだ別離たわけじゃないです。 |
女 |
あ、そう。ま、とにかく…ズボンとパンツをぬいでそのベッドに横になって。 |
男 |
は、はい。でも、感染ってわけじゃないと思うんですよ。まあ、 原因はあいつにあると思うんだけど…。 |
男、ベルトをカチャカチャとはずし、ジーンズとパンツを脱ぎ横になる。 | |
男 |
つ、つめたい…ですね。このベッド。 |
女 |
あ、そう?浮気は? |
男 |
してませんよ!あ、あの、これは浮気じゃ…え?浮気とかじゃないですよ…ね。 |
女 |
なに言ってるの。彼女はどうなの? |
男 |
あいつはそんなことする女じゃないんです。 |
女 |
へー、自信たっぷりじゃないの。つき合って何年? |
男 |
3年です。 |
女 |
結婚しないの?ちょっと痛いわよ。 |
男 | 僕は考えてるんだけど、あいつが、アー!! |
女 |
ごめん、ごめん、だからちょっと痛いって言ったじゃないの。 |
男 |
たったったった。なにするんですか。 |
女 | 動いちゃだめよー。楽にしてて、楽にー。 |
男 | 楽にってその、痛いじゃないですか。 |
女 | 変ねぇ。出ないわ。 |
男 | 出ないですよ。そんなことして出るわけないじゃないですか。 |
女 | 出るのよー。普通はこれで出るのよー。 |
男 | ちょっと待って下さい。もう一回やるつもりじゃないでしょうね。 |
女 |
はい、楽にしてー。 |
男 |
ダメ。ダメです。出るわけないです。そんな事で。 |
女 | はいはい。素人はだまってて。 |
男 | いや、素人にでもわかるんですよ。もっとその…照明とか、音楽とか、いろいろあるじゃないですか、ムードをもり上げる方法が…。 |
女 |
ああ、そういう方法もあるらしいけど、さっきも言ったとおり、今日、忙しいのよ。じゃあ、これかな。 |
カチャカチャと、器具の音。 |
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男 |
な、なんですか、それ。 |
女 |
カテーテルよ。 |
男 |
カテーテル? |
女 | これで、ちょっと吸い出してみましょう。ああ、痛いのは、ちょっとの間だけだから。 |
男 |
ま、まさか、その細いスポイトみたいなのを…。 |
女 |
だいじょうぶ。心配いらないからねー。3日くらいでもとにもどるから。はいはい。楽にしてー。 |
男 | えー?!ちょっと待って下さい。 |
女 | いいの?感染症をなめちゃいけないわよ。腎臓とかボーコーとか、いろんなとこに炎症が広がってたいへんなことになるのよ。 |
男 | だから感染症じゃないんです。 |
女 | はいはい。感染症かどうかもこの検査でわかるからね。じっとしてるのよ。 |
男 | あ、ちょっと。引っぱらないで、あ、あ、あ、そんな、やめて下さい。アー!! |
女 | 動くとよけい痛いって。 |
男 | あ、…あ、…あ、…あぁー……。 |
カチャカチャと器具の音。 | |
女 | ふうん、見たところ何もないわね。にごりもない透明な液体だわ |
男 | ……も、もう帰ります。(泣いている) |
女 | はいはい。もう帰っていいですよ。結果は1週間後に出るからね。また来て下さい。えーと、あなた保険証、今日持って来てないから、その時に忘れずに持って来て下さい。 |
男 | ほ、保険が効くなんて、はじめて知りました。し、失礼しま…す。 |
女 | あ。ほらほら、ズボンとパンツ。忘れてるわよ。 |
(おわり) |