第207話 (2000/03/17 ON AIR)
『桜月夜 作:深津 篤史



 ひとしきり風の音

さぶっ

花見にはちょっと早いなあ

うん

どっかぬくいとこ行く?

あかん

ええやん、さむいし

さむいからゆうて、気安うそんなとこ行ったらあかん

そんなとこって

昔なあ

昔、桜の木の下で女と別れてん

うん

ごっつうきれかったわ。満開やったし。周り花見客で
いっぱいでなあ。

そんなとこで別れ話?

すぐ隣でよっぱらいのおっさんらが宴会しとった

最悪

女の方から持ち出した別れ話でな

うん

なあんか様子おかしいなあ思てブラブラ歩いた。2人で
メシ食って、どっちからも切り出せんくて、若かったしな
どうでもええような話しもって歩いたら桜の木の下やった。

うん。

なんか、かっこつけたかったんやと思う。最後やし、
たぶんふられるわけやし。

わかってたん?

親切な友達が忠告してくれたしな。こないだデートしとった
けど大丈夫なんかって

その人が?

うん

なんか耳がい痛いなあ

ええねん、ええねん、女とられる男の方が悪い

そうなん

好きな奴できたんかってきいてん。うんて答えた。めっちゃ
好きなんかってきいた。うんて答えた。正直やわ。

 女、少し笑った。

周りでおっさんらカラオケやっとったけど、何にも聞こえん
ようなった。今日みたいに風のきつい日で、桜の花びらが
ぶわーって風にまった。スローモーションみたい。

うん

テレビの恋愛もんで、ここっちゅうシーンに音なくなったり
するやん。ドラマみたいやなあて思て

うん

となりではあいかわらずおっさんカラオケうとてて

うん

俺ら勝手にドラマの主人公になってるだけやねんなって思った。

ただのロマンチストやろ

ええやん

ええやん、なっても

けどテレビはそこで終わるやろ

現実はそこで終わらへんねん。俺らその晩エッチしたゆうねん
最後にもう一回ゆうて。

かっこわる

うん

いくつの時の話?

もう10年くらい前かなあ

ふうん

かっこわるかったけど気持ちよかったわ

あほ

あれから、桜、きらいになってなあ

うん

けどそれは、たとえば犬にかまれたから犬がきらいになるとか
とはちゃうねん。

ドラマの続きを演じたいゆうんかなあ。桜をきらいになること
で自分の中でかっこええ思い出にしようゆうことなんかなあ

うん

ださいな。何話てんねやろな

今は

今は桜きらい?

きらいやなかったら花見しようなんか言わへんて

うん

どっかぬくいとこいこか

やっぱし、こういう事は自分から言いたい

(少し笑って)そうなん

ドラマみたいか

あほ

そうもいかんよな

しよ

                             了